予算管理(読み)よさんかんり(英語表記)budgeting

日本大百科全書(ニッポニカ) 「予算管理」の意味・わかりやすい解説

予算管理
よさんかんり
budgeting
budgetary control

予算という語を広義に解釈して国家予算の適正な執行などをも含めることもあるが、一般には、営利企業活動の合理的な展開を目的としてアメリカ産業界で開発された経営管理の一技法をさす。

 第一次世界大戦後、アメリカは未曽有(みぞう)の不況にみまわれたが、このような状況を打破する方策の一つとして、科学性を基礎とする計数管理の諸方法が研究開発された。予算統制(後の予算管理)は、損益分岐点分析標準原価計算などと同じく、この時代の産物である。初め、これは、天下り的な方法で通知された期間予算を使って支出の制約をし、事後に実績との差異を分析することを中心に議論されたが、1950年代以降、経営計画とくに利益計画の重要性が提唱されるにしたがって、しだいに、事前において適切なプログラムを示し行動の動機づけを与えるような諸機能に強調が置かれるようになった。1960年代ころからは、企業活動の総合的な利益管理方法としての有効性が認知され、予算編成およびその統制という意味をまとめるものとして、予算管理という用語が使われることが多くなった。したがって、予算統制または予算管理とは、統括的な利益概念を通じて企業の諸活動を総合的および調整的に計画化し、これに基づいてその実行活動を嚮導(きょうどう)し、事後においては、予算と実績との差異分析から責任会計的な業績管理と是正措置行動に必要なデータの提供を行うことを意味する。とくに、予算の調整機能は、企業組織が拡大化、複雑化している場合、および予算編成手法にも積み上げ的な発想が重視される場合、予算管理ならではの働きを示すことが期待されている。なお、近年は予算管理機能の限界を直視して、“脱”予算管理beyond budgetingといった動向もある。

[東海幹夫]

体系と手法

各種の予算はそれぞれ孤立したものであってはならず、究極的には統合されなければならない。したがって、予算管理の実践化にとって、その体系化は重要な意味をもっている。通常、予算は、見積損益計算書に総括される損益予算(売上高売上原価、販売費、一般管理費、営業外損益予算など)、財務活動にかかわる資金予算(現金収支、運転資本、信用予算など)、設備投資とその資金調達にかかわる資本予算(設備投資、資本調達予算など)とに三分される。さらに、これらは、各部門と関連づけて細分される。現実予算制度は、さまざまな形で展開されているが、その多元的な機能の発現を目ざして、天下り型あるいは総合予算中心主義と、積み上げ型あるいは部門予算中心主義のいずれのメリットも考慮した折衷型のシステムが多い。

 また、予算は、一方においては、数学的あるいは統計的な技法を利用して予算編成手続の精緻(せいち)化が進められているが、他方では、予算の与える心理的効果の研究すなわち行動科学との結合が図られるなど、学際的な研究の顕著なテーマの一つとして注目されている。

[東海幹夫]

『小林健吾著『体系予算管理』改訂版(2002・東京経済情報出版)』『ベリングポイント編『将来予測重視の予算マネジメント』(2004・中央経済社)』『ジェレミー・ホープ、ロビン・フレーザー著、清水孝監訳『脱予算経営』(2005・生産性出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「予算管理」の意味・わかりやすい解説

予算管理 (よさんかんり)
business budgeting

企業予算を計数的手段にして展開される経営管理活動の総称。予算計画と予算統制とに区分され,管理会計の最も代表的な適用領域である。予算管理は,将来の特定期間における企業の全体にわたる調整のとれた行動の計画を,体系的かつ会計的に総合予算として表現し,また,総合予算との照応においてラインの各管理者に達成目標としての実行予算を指示するとともに,予算数値と実績数値とを比較・分析して,業績評価や修正活動に指針を提供する。それらの諸機能を通じて,予算管理は,トップ,ミドル,ローワーの各ラインの各管理者が遂行する計画設定活動や統制活動に貢献することが期待されている。日本の多くの企業では,スタッフ部門としての経理部や企画管理部などが全社的な立場から,各管理者による予算管理活動を補佐している。

 予算管理は,それぞれがフィードバック・ループをもった一連のステップからなる。すなわち,期間利益目標の設定,予算編成方針の作成と各部門への指示,各部門予算案の作成,各部門予算案の調整と総合予算(見積財務諸表)の編成・決定,総合予算の実行予算への配分,実行予算の各管理者への指示,実績の会計的測定,予算実績差異分析と予算報告書の作成,各管理者に対する修正活動の指示の逐次的過程がそれである。それらのうち,期間利益目標の設定が全体のあり方を規定する。それは,長期利益計画を反映するとともに,予算計画と予算統制との逐次的なステップを,企業全体の利益目標に結びつける役割を果たさなければならない。たとえば,総合予算の編成は,利益目標の達成を期待することのできる計画設定活動を導くのであり,実行予算や予算報告書は,利益目標を実現するための個別具体的な統制活動を導くのである。このようにして,予算管理は,全社的かつ有機的な利益管理を行うために,他の手段によって代替できない固有な手段を提供するであろう。
管理会計
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の予算管理の言及

【会計学】より

…財務諸表論は会計学の基本的な領域なので,これを会計学ということがある。(c)原価計算は企業の生産物との関連において原価を計算するものであり,その目的は,財務諸表の作成に必要な原価資料の提供,原価管理に必要な原価資料の提供,価格計算に必要な原価資料の提供,予算管理に必要な原価資料の提供,経営の基本計画の設定に必要な原価情報の提供等である。上記第1の目的(財務諸表の作成に必要な原価資料の提供)は,損益計算書上の売上原価や貸借対照表における流動資産のうち,原材料,仕掛品,半製品,副産物等の期末在高が原価計算によって算定されることを意味している。…

【管理会計】より

…企業の管理実践において,トップ,ミドル,ロワーのラインの各階層の管理者が遂行する経営管理活動に対して,会計的方法を通じて貢献する計数的手段。機会原価分析,差額原価分析,資本予算,損益分岐点分析,予算管理(予算計画と予算統制),直接原価計算,標準原価計算,標準直接原価計算など,それぞれ成立の時期や背景を異にしながらも,経営管理活動のうち計画設定活動や統制活動に役立つことを企図して開発された各種の手段から構成される。それらは,過去の取引活動の実績を事後的に測定することよりも,むしろ将来事象の見積りや予測などの事前的測定にウェイトをおくことになる。…

※「予算管理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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