原始国家(読み)げんしこっか

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「原始国家」の意味・わかりやすい解説

原始国家
げんしこっか
primitive state

伝統的国家ともいう。いわゆる「未開社会」や植民地化以前のアフリカなどに残っていた王制に対して適用された用語。一般に,近代国家,歴史上の古代国家と区別して用いられたが,今日では,進化主義人類学衰退とともに,これらの王制に人類史上の原始的な国家形態の残存をみることは行われなくなっている。これらの国家は王を中心とする集中的権威と行政・司法制度をもっており,しばしば支配者層と被支配階級の分化がみられた。アフリカのシルーク族の王国のように,王が国土繁栄と統一を象徴する神聖な存在とされ,王の病気や老衰は国の繁栄を脅かすと考えられたため,その兆候があるときには王をひそかに殺す王殺し慣習がしばしばみられた。王制は年齢組織,血縁組織などの社会の下部組織と錯綜して成立していることも多いが,一方では,王直属の官僚軍隊が,王の親族ではない奴隷や個人的従属者から構成されていた西アフリカの諸国家のような例もある。また,多くは中心から離れるに従い,各地方単位が分離独立する傾向をもつという分節的国家の様相を呈していた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「原始国家」の意味・わかりやすい解説

原始国家
げんしこっか

アフリカのズールーアンコーレ中南米インカ帝国アステカ帝国などのように、文字をもたない社会でありながらも高度に組織された政治形態をもち、国家とよぶにふさわしい機構を整えている社会は、原始国家とよばれ、国家の一形態、あるいは特殊な国家として扱われてきた。

 これらの社会は、中央集権的権威の存在、一般人民と異なる行政官によって構成される行政機構、整備された司法制度、富と権威の社会的分布、そして権威と権力の分布に応じた階層の存在などによって、国家としての要件を満たすとされる。そして、近代国家や古代国家などと比較して特徴的なのは、王が単なる世俗的統治者ではなく、神話・伝説によって神話的起源をもち、また象徴物の存在などによって神格化されていること、そしてさらに、そのことによって王権が正当化されていることなどであるとされてきた。しかし、ヨーロッパやアジアの古代国家とは共通点が多く、原始国家の特殊性は疑問視されてきている。また、アフリカのアンコーレ王国は征服によって形成されたため、国家起源に関する征服説の例証として扱われることがある。

[豊田由貴夫]

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