家庭医学館 「口腔異常感症」の解説
こうくういじょうかんしょう【口腔異常感症 Abnormal Sensation in the Mouth】
口腔内になんら器質的病変(腫瘍(しゅよう)や炎症)が存在しないのに、疼痛(とうつう)(痛み)、乾燥感、知覚過敏、まひ感、異物感などの異常を生じる病態をいいます。
なかでも多いのは、舌先や舌縁に感じる疼痛とヒリヒリ感・ピリピリ感といった知覚過敏の症状で、これらをとくに舌痛症(ぜつつうしょう)といいます。乾燥感を訴えることも多く、これを口内乾燥感症(こうないかんそうかんしょう)と呼ぶこともあります。これらの症状は、食事中はほとんど変化がないか、消失する場合が多いのが特徴です。
[原因]
口腔異常感症の原因は明確には解明されていませんが、心理的要因と身体的要因とが合わさっておこると考えられます。
心理的要因は、ストレス、不安、恐怖などで、性格には几帳面(きちょうめん)、完全癖(かんぜんへき)などの強迫傾向や心気傾向がみられます。
症状の多くは、歯科処置や粘膜(ねんまく)の炎症などの際の異常感を、ことさら気にし続けるというものです。
身体的要因としては、唾液腺機能(だえきせんきのう)の低下、血清鉄(けっせいてつ)の低下、口腔内の細菌叢(さいきんそう)の変化などがあります。
[検査と診断]
まず、視診で腫瘍や炎症などの原因となる病気がないかを確認します。また問診では、食事で症状が増強しないか、消失するかを知ることも重要です。
安静時と刺激時の唾液量を測定し、唾液腺機能を調べます。また、血液検査で血清鉄、亜鉛(あえん)の値を調べます。
口腔内菌検査は、食事などの影響を受けない早朝唾液を検体としますが、真菌(しんきん)(かび)の一種であるカンジダの増殖の有無には、とくに注意します。
心理的要因は問診の際に感じとれますが、いろいろのアンケートを行なって、より客観的に診断します。
診断に苦慮する場合もあり、そのときは軽い精神安定剤を少量使用し、症状の変化をみることもあります。
[治療]
検査で異常があれば、その治療が行なわれます。
舌痛症の場合は、口腔内に悪性腫瘍などの病気のないことを根気よく説明し、口の中を鏡で見たり、指で触ったりしないようにと説明します。
口内乾燥感症の場合は、唾液腺機能が正常なので、精神的に症状にとらわれないように説明します。
いずれも症状が治まらないときは、軽い精神安定剤が用いられます。
[日常生活の注意]
体内の鉄のほか、亜鉛の低下でもおこりやすくなるので、偏食を避けることが重要です。
舌痛症は、唾液量の低下もその要因の1つですが、唾液量の低下に引きつづいておこりやすいカンジダの増殖も重要で、口腔内を清潔に保つことを心がけてください。医師から詳しい説明を受けて納得し、精神的なこだわりをもたないことも必要です。
[予防]
歯みがき、うがいなどで口腔内の清潔を保つように心がけることです。また、必要以上に口の中を鏡で見たり、指で触ったりしてはいけません。