司法面接(読み)しほうめんせつ(その他表記)forensic interview

共同通信ニュース用語解説 「司法面接」の解説

司法面接

虐待や性的被害を受けた子どもが、何度も事実関係を聴かれることにより被害を思い出す事態を防ぐ目的で、1990年ごろから欧米などで採用されている。誘導を避け自発的な発言を促すのが特徴で、子どもの発達や心理状態を考慮しながら聞き出す訓練を受けた面接者が原則1回、約1時間の範囲で行う。警察や検察、福祉の関係者は別室のモニターで見て情報を共有。ビデオなどに録画・録音した内容は捜査上、証拠として扱われ、法廷証言の代わりにもなっている。

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最新 心理学事典 「司法面接」の解説

しほうめんせつ
司法面接
forensic interview

司法面接とは,法廷でも使用することのできる,精度の高い供述証拠を聴取することをめざした面接法総称である。捜査面接investigative interviewともいわれ,実際上は録画面接video recorded interviewとして行なわれる。この面接法がとりわけ注目されるのは,被害者,目撃者となった子どもや知的障害者などが聴取対象となる場合である。

【子どもの証言】 子どもが目撃者,被害者となった事例では,その証言能力は認められながら,証言の信用性が否定される事例が少なくない。注意,記憶コミュニケーションなど,子どもの認知能力の問題もあるが,周囲のおとなによる誘導や圧力,面接の繰り返しにより,記憶の変容が生じたり,供述が曖昧なものとなったり,変遷したりすることが,問題として指摘されている。1980年代にアメリカで起きたマクマーチン事件(幼稚園の職員が園児への性的虐待で起訴されたが,園児への誘導的な面接法に問題があるとされた)や,イギリスで起きたクリーブランド事件(保護者による児童への性的虐待が問題とされたが,児童への面接も含め,警察や福祉関係者の対応に問題があるとされた)などにより,幼児,児童へのより適切な事情聴取の検討が行なわれるようになった。イギリスではバトラー・スロスButler-Sloss裁判官を委員長とする調査委員会の勧告を受け,1992年にイギリス内務省・保健省が『子どもの司法面接:ビデオ録画面接ガイドラインMemorandum of good practice on video recorded interviews with child witnesses for criminal Proceedings』(MOGP)を刊行した。開発にはイギリスの犯罪心理学者であるデイビスDavies,G.M.やブルBull,R.が携わった。ガイゼルマンGeiselman,R.E.とフィッシャーFisher,R.による認知面接cognitive interviewの影響も大きい。

 司法のシステムにいち早く取り入れられたのは,上記のMOGPである。MOGPは社会的弱者である子どもに関する特別措置として位置づけられ,被害者,目撃者が14歳未満(性的虐待の場合は17歳未満)の場合,様相面接phased approachとよばれる面接法を原則として1度だけ行ない,これを録画することを推奨している。録画は裁判官の裁量により,子どもへの主尋問の代わりに用いることができる。2002年には,MOGPを拡充した『捜査手続きにおける最良証拠の確保:子どもなどの傷つきやすく怯えている証人のためのガイダンスAchieving the Best Evidence in criminal proceedings: Guidance for vulnerable and intimidated witnesses,including children』(ABE)が刊行された。そこでは児童のみならず,一定の精神障害,知的障害,身体障害,発達障害,事件で怯えている人intimidated peopleにおいても,同様の手続きによる面接が可能とされている。

 アメリカでは1990年代に,国立小児保健・人間発達研究所National Institute of Child Health and Human Development(NICHD)で,ラムLamb,E.らがNICHDプロトコルを開発した。このプロトコルはアメリカ国内や北欧,イスラエルなどで広く用いられ,とくにイスラエルでは,1990年代後半にハーシュコビツHershkowitz,I.が導入した後,国の標準的な手続きとして用いられるようになった。そこでは性的虐待の被害者や殺人の目撃者となった子ども,知的障害をもつ成人や未成年の被疑者に対し,NICHDプロトコルに基づく面接が行なわれている。このほか,カナダのステップワイズ面接stepwise interview,ドイツの構造面接structured interviewなどが有名である。

【司法面接の方法】 司法面接は子どもや知的障害者への負担を軽減することを大きな目標としている。そのためイギリスをはじめとする諸外国では,司法と福祉(たとえば警察官とソーシャルワーカー)が多職種連携チームmultidisciplinary teamを組み,1度で必要な情報を収集することを推進している。面接は録画録音機能のある面接室で,訓練を受けた面接官が行ない,チームのほかのメンバーはモニター室で面接を視聴する。面接室は,被面接者の注意を阻害することのないように,簡素なつくりとなっている所が多い。また,立会人の影響を防ぐために,面接者と被面接者が一対一で行なう(通訳等が入る場合は例外となる)。面接室においては,面接者は被面接者と10時10分の角度で座り(異なる位置関係を取る場合もある),身体全体が録画されるよう,家具の配置に留意する。

 司法面接の種類は多いが,どの面接法も①導入,②自由報告,③質問,④終結(クロージング)の過程を含むのが一般的である。①導入の段階では,グラウンドルール(「ほんとうにあったことを話してください」「質問がわからなければわからないと言ってください」「知らないことは知らないと言ってください」「わたし(面接者)が間違っていたら,間違っていると教えてください」「わたしはその場にいなかったので,何があったかわかりません。どのようなことでも,あなたのことばで話してください」などの約束事を伝える),ラポール形成(信頼し,リラックスして話せる関係性を作る),エピソード記憶の練習(最近の出来事を話してもらうことで,エピソード記憶を思い出し,報告する練習をする)などを行なう。②自由報告の段階では「何があったか話してください」「今日は何を話しにきましたか」などのオープンな誘いかけを行ない,子どもに主体的に話してもらう。③質問の段階では,さらに必要な情報を収集する。質問は,まず「はい」「いいえ」などで答えることのないオープン質問open questionから始める。具体的には誘いかけ(「話してください」),時間分割(たとえば,子どもが「Aの後Bだった」と話したならば「AからBの間にあったことを話してください」),手がかり質問(「さっき言っていたAについてもっと話してください」),促し(あいづちやエコーイング)を主として用い,それだけでは得られなかった情報をWH質問(だれが,何を,どこで,いつ,どうした)で補う。その後,必要であれば,クローズド質問closed question(「はい」「いいえ」で答える質問や選択式の質問)を行なうが,誘導となりやすいので注意が必要である。クローズド質問に入る前に,面接者は数分の短い休憩を取り,モニター室にいるチームと,十分に聴取できたかどうか確認作業を行なう。④クロージングでは,被面接者に感謝を伝えるとともに,被面接者からの質問や希望を聞き,連絡先を伝えて終了する。

 実験室やフィールドでの研究により,司法面接は従来の面接法に比べ,正確な情報をより多く引き出すこと,幼児においても自由報告が得られやすいこと(自由報告で得られた情報はより正確だとされる),信頼性の査定がより正確に行なえること,得られる情報の一貫性が高いことなどが確認されている。 →供述 →認知面接
〔仲 真紀子〕

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