供述(読み)キョウジュツ

大辞林 第三版の解説

きょうじゅつ【供述】

( 名 ) スル
刑事訴訟法で、被告人・被疑者・証人が知覚した事実を述べること。また、その述べた内容。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

供述
きょうじゅつ

刑事訴訟法上、被告人、被疑者、証人その他の訴訟関係人が事実を事実として述べることをいう。日本国憲法は、「何人(なんぴと)も、自己に不利益な供述を強要されない」(38条1項)と定めている。捜査機関は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭および供述を求めることができる。その際、黙秘権の告知を必要とする(刑事訴訟法198条2項)。被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。被告人は黙秘権、供述拒否権を認められているが、任意に供述をする場合には、裁判長は、いつでも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができる(同法311条)。陪席の裁判官、検察官、弁護人、共同被告人またはその弁護人は、裁判長に告げて、被告人の供述を求めることができる(同法311条3項)。裁判員裁判においては、裁判員も被告人に対して供述を求めることができる(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律59条)。捜査機関は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭および供述を求めることができる(刑事訴訟法223条)。この者が出頭または供述を拒んだ場合には、第1回公判期日前に限って、一定の要件のもとに、検察官は裁判官にその者の証人尋問を請求することができる(同法226条以下)。被疑者・被告人の供述書、供述録取書、被疑者・被告人以外の者の供述書・供述録取書の証拠能力は、伝聞証拠排斥の原則の例外規定により、一定の要件を満たしたときに肯定される(同法321条以下)。[内田一郎・田口守一]

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精選版 日本国語大辞典の解説

きょう‐じゅつ【供述】

〘名〙 被告人、被疑者、証人などが、裁判官や捜査官に対し、ある事実について述べること。また、その内容。
※刑事訴訟法(明治二三年)(1890)九五条「裁判所書記は訊問及ひ供述を録取し」

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最新 心理学事典の解説

きょうじゅつ
供述
statement

訴訟手続き上の概念で,被疑者・被告人,目撃者,被害者あるいはほかの関係者が,自分の体験した過去の出来事を事実として述べることをいう。また,法廷で述べられて証拠として用いられるときには,証言testimonyといい,法実務では区別されるが,一般には混用されることが多い。わが国の法実務のうえでは,供述が上位の概念で,証言はその中の一部,とくに被告人以外の目撃者,被害者などの法廷供述を指す。

【供述過程】 もともとは取り調べや事情聴取,あるいは法廷において質問者に答えて口頭で述べられるものであるが,わが国では第三者(とりわけ捜査官)が文書に記録したものを証拠として用いることが多い。その文書を供述調書あるいは供述録取書とよぶ。しかし,そのように調書化したとき,もともと口頭で行なわれた質問-応答の過程や文書化の過程は伏せられ,そこで何があったのかを検証できない。そのためこの供述過程を事後に検証できるように可視化visualizationの手続きを取るのが世界の趨勢であり,今では供述過程を録音・録画する国々が多くなっている。供述が過去の事実を正確に述べたものとして信用できるかどうかを検討するうえでは,対象とするデータが録音・録画で可視化された供述であるのか,それとも供述調書として文字で記録した供述であるのかによって,その方法が大きく異なる。その点,可視化が進んでいないわが国では,供述調書のかたちで証拠にされることが多いために,それに合わせた独特の供述分析statement analysisが展開されることにもなった。

【供述までの知覚・記憶保持過程とその歪曲要因】 出来事を体験した人が,その体験をビデオテープのようにそっくりそのまま供述に再現できるならば,意図的なうそ以外にはその供述の信用性に疑う余地はない。しかし,出来事の体験からその体験を再現しようとする供述までの間に,当の出来事そのものに起源をもたない付加情報や歪曲情報がいろいろなかたちで混入してくる。

⑴知覚の局面 まず,出来事に出会い,これを知覚する局面で,人はそのときの関心事によって,知らず知らずのうちに知覚するべきところを選択し,その場面を図(前景)figureと地(背景)groundに分けている。「見れども見えず,聞けども聞こえず」の喩えにあるように,物理的刺激として存在することとこれを心理的体験として認知することは同じことではない。しかも心理的体験として認知するときには,人は前後・周辺の脈絡のなかで,それをなんらかの意味をもつものとして解釈する。たとえばレストランでウェイトレスがある客の前に料理を運び,次いで客が何かことばを発し,ウェイトレスが料理を持ち去る場面を見れば,その経緯の詳細は不明なのに,「客が料理に文句を言って取り替えさせた」というふうに解釈する。ここでは,これまでレストランなどで体験しえた先行知識によって現行の体験を一つの意味の流れに統合するという解釈の過程が入り込んでいる。この知覚の選択性・解釈性は,知覚を含む人間のより大きな認知システムに共通の特性である。人は過去の経験に関する貯蔵された知識のまとまりとしてなんらかのスキーマschemaをもっていて,これが物事を体験する際の期待や主題,また解釈の枠組みとして機能する。

⑵記憶保持の局面 出来事の体験からそれを想起して供述するまでの時間的経過の中で,記憶はそのままに保持されるわけではなく,多くの情報は忘却され,保持され残された情報は一つの脈絡のもとにまとめられていく。ここにも知覚の局面と同様の選択・解釈の作用が働く。知覚や記憶の過程は,外界からの感覚情報をただ受け身的にくみとり刻みつけるだけの単なるボトム・アップ過程ではない。人は子どものころから多くの体験を通して種々のスキーマを積み上げ,このスキーマによって眼前の感覚情報を解釈し統合する。この既存のスキーマによる解釈・統合は,いわばトップ・ダウンの過程であって,それゆえ知覚や記憶はボトム・アップの感覚過程とトップ・ダウンの解釈・統合過程の相互作用の所産である。

【供述聴取過程における歪曲要因】 体験して記憶に刻み保持したことを事情聴取の場面で供述するときには,知覚や記憶の過程では問題にならなかった別の要因が絡んでくる。知覚・記憶は基本的に体験者当人ひとりの内の過程として考えられるのに対して,供述は一般に質問する者と供述する者との二者関係の過程であり,また同じ出来事を一緒に体験した者が共同想起するときには,互いの供述が相互に影響し合うからである。この過程については,質問者側,供述者側それぞれの要因が問題になる。

⑴質問者側の要因 質問者は問題の出来事(事件)について,質問に入る以前から,一定の情報を基に当該事件について一定の想定をもち,それに基づいて質問する。その結果,質問者が思い描いた想定がその質問のことばにおのずと表われる。また質問に対する相手の応答を聞いたとき,質問者はおのずと自分の想定に沿う方向に,供述を選択的に聴取しやすい。結果的にそこで質問者の想定に沿った誘導inductionが進行する。この誘導は必ずしも意図的,意識的なものではなく,むしろ無意図的,無意識的であることが多い。人はとかく自分の想定を裏づける供述が出てくればそれが正しいと思い,逆に想定に反する供述が出てくるとそれは間違っているのではないかと思いがちになる。とりわけ質問者が供述者よりも強い立場にいるときには,結果として意識せざる誘導が起こりやすい。

⑵供述者側の要因 供述者の側には,質問者の誘導に対応して,その質問の仕方やことばづかいに表われた質問者の期待(想定)におのずと応じようとする傾向がある。一つには,質問者の使った微妙なことばのニュアンスに引きずられて,無意識裏に元の体験とは食い違う方向に引き寄せられてしまう被暗示性suggestibilityの問題がある。たとえば走ってきた車が「当たったとき…」と聞かれるか,「激突したとき…」と聞かれるかで,そのときの車の速度が違ったかたちで答えられてしまう。この時実際の出来事を見ていない質問者は,これを誘導するつもりはないし,供述者の方でも暗示を受けて自分が誘導されたとは気づかない。また一つには,質問者の質問に含まれている想定が自分の体験と明らかに食い違っているとわかっていても,それに合わせてしまう迎合性complianceが働くことがある。最も典型的なのは,捜査官が逮捕した被疑者を犯人だと確信して取り調べたとき,やがて苦しくなった被疑者が,自分が無実だとわかっていながら,罪を自白してしまう虚偽自白false confessionである。ここでも相手を犯人だと確信している捜査官の側には誘導したとの自覚がないのだが,被疑者の側は自分がうそを言っていることを自覚しており,しかし迎合せずにはもはやその場を耐えられない状況に追い込まれている。また問題の出来事を一緒に体験した人がいる場合は,他の体験者の供述を聞かされたときに,意識的,無意識的にその供述に引きずられることもある。たとえば事件について複数の目撃者がいるような事例では,しばしばこの同調性conformityが問題となる。なお,このようにして元の体験とは異なる供述がなされた後,この供述内容そのものが本物の記憶であるかのように保持されていく2次的記憶secondary memoryの現象も注目されている。

⑶供述録取の際に入り込む要因 質問者と供述者の質問-応答は,わが国の捜査実務においては,1回につき何時間にもわたるのが一般で,しかも場合によってはそれが何回も何十回も繰り返される。それぞれの供述聴取結果は供述調書に文書で記録されるが,その記録化の過程で無視できない歪曲要因が働く。文書での記録化は後の裁判で証拠として使われることを意識してなされるために,捜査官はできる限り証拠として意味のある内容を記録にとどめようとする。結果として捜査官が想定した内容に沿わないものは排除され,沿うものが選ばれて調書に書き込まれる。そうして記録した調書内容は,捜査官の側で読み聞かせ,それを供述者が認めて,署名・押印することが規範とされているが,実際にはいったん調書に書き取られた内容は,供述者がよほど強く主張しない限り訂正されないし,被疑者のような弱い立場にいるときには,そうした抵抗自体が容易ではない。結果として,そこには一種の検閲censorshipが働くことになる。端的な例を挙げれば,犯人と目された被疑者が強固に繰り返し否認しても,そのことが供述調書にはまったく記録されないことがある。しかしながら,捜査官の側は自らの想定に確信をもっているために検閲をしているとの自覚がないことが多い。このように供述聴取の場面に働く歪曲要因は,知覚や記憶の過程で働くそれよりさらに複雑で,その歪曲要因の分析こそが,供述分析の最も中心的な課題となる。この供述聴取過程がブラックボックスの中で行なわれて,可視化されていなければ,供述調書のみによる供述分析は困難をきわめる。

【供述の信用性判断と供述分析】 供述が信用できるかどうかの検討は,出来事についての正確な事実認定のために重要な手続きであるが,裁判においては,この点を巡っての争いが多い。供述の信用性判断にかかわる事実認定の実務において重要な論点がいくつかある。

⑴直感的判断の危険性 供述の信用性判断の基準として,これまでは供述の外形的な特徴に注目されることが多かった。たとえば供述が客観的な証拠や状況と合致する,筋書として自然である,具体的詳細で迫真性がある,基本的なところで一貫性があるなどの特徴が信用性の基準として考えられてきたが,供述調書のかたちで与えられた供述については,そのような直感的判断は危険である。たとえば捜査官は事件の客観的証拠・状況を把握して質問する以上,供述者の供述がそれと食い違えば,これを指摘する。結果として供述の矛盾がただされて,調書にまとめられた供述は証拠・状況と合致するということがありうる。無実の被疑者の虚偽自白でさえも,捜査官が客観的証拠を突きつけて追及すれば,自白に落ちたのち,被疑者はその証拠と合致する供述を行なう以外にない。供述過程が可視化されていなければ,供述者が体験の記憶をそのまま供述してそれが証拠と合致したのか,それとも証拠を把握した捜査官が追及し聴取したことで供述が証拠と合致する結果となったのかを判別することはできない。

⑵供述の起源 供述の信用性を判断するうえで重要になるのは,その供述が供述者の体験の記憶に起源をもつのか,それとも捜査官の追及の中に含まれている情報に起源をもつのかである。供述分析を体系化したトランケルTrankell,A.は,この供述の起源origin of statementという視点を重視している。この視点に立つことで初めて,原体験に起源をもたない歪曲要因として,被暗示性や迎合,同調,検閲の問題を正当に取り扱うことができる。

⑶供述の体験性の根拠 供述が供述者の体験に起源をもつことを示す指標として重要なのは,質問者が把握していない情報を供述者が自ら供述し,その後にそれが客観的に証明されるいわゆる秘密の暴露disclosure of secretである。たとえば捜査側がまだ死体を発見していない事件で,被疑者がその死体遺棄場所を供述し,それが供述どおりの場所から出てくれば,被疑者がその他の第三者から聞き知ることがない限り,供述は本人の体験によるものであることが証明される。それは非体験者が想像で供述できることではないからである。秘密の暴露まではいかないにしても,供述者の知識や能力からして,体験なしに想像で語れる範囲を超えた供述もまた重要である。たとえば男性からわいせつ行為を受けた幼女が,男性器から「白い汁」が出てきたと供述したとすれば,その幼女が精液について無知で未体験である限り,それは幼女の想像能力を超えた供述statement beyond imaginative facultyであり,原体験に起源をもつ供述だと判断してよい。ただしこの場合,質問者の側にこの点の誘導がないことも確認しておかねばならない。この判断基準は,子どものわいせつ被害供述を多数分析したウンドィッチUndeutsch,U.らによって強調された。

⑷供述の非体験性 逆に,供述が供述者の体験に基づかず,明らかに供述者の誤った再構成によって生まれたことを示す基準として逆行的構成retrospective constructionがある。たとえば,施設の中で先生が子どもの手を引いて連れていく場面を目撃して,その直後に子どもが死体で見つかったというような場合,事後的に見れば,子どもが連れられていく場面は怖い場面だということになる。しかしそれを目撃した当の場面では,まだ事件が起こるなどとはだれも思っておらず,ただの日常の一コマにすぎない。ところが,事件発覚後に登場した目撃者が,その場面を見て怖くなって部屋の隅に身を隠して様子を見ていたなどと供述することがある。この目撃供述は,事後になって初めてわかることが,さかのぼって過去の問題場面にはめ込まれているという点で,原体験によらない想像に起源をもつ供述であることが明らかである。無実の人の虚偽自白事例でも,捜査官が事後に把握した客観的証拠をもって追及するために,自白転落後はその証拠と合致するように犯行筋書を語らざるをえず,結果として供述した犯行の流れがあまりにも不自然,不合理になることがある。非体験者が,事件によって残された証拠から事件を再構成したとき,その供述は順行的に展開したはずの体験からずれて,不自然にならざるをえないのである。これもまたこの逆行的構成の結果である。こうした点に注目して供述分析することで自白の虚偽性を見抜くことも可能である。

⑸供述の動機 供述の信用性判断の根拠として,供述者の側にうそをつく動機がないということがしばしば挙げられる。日常の判断においてはそれで十分に合理的な判断かもしれないが,捜査や裁判にかかわる場面では,これを安易に信用性の根拠にすることはできない。たとえば満員電車の痴漢事件で,被害女性が痴漢行為を受け,相手の触ってくるその手をつかまえたと供述している場合,その供述がうそでない限り,犯人を取り間違えることはありえない。そして若い被害女性が見ず知らずの男性をうそで訴える動機はないから,その供述は信用できると判断されたりする。もっとも摘発した時点で,女性がその男性を犯人だと思い込んでいても,実際には痴漢してきたその手を取り逃がし,相手を間違えた可能性はある。しかし,その時点では女性はもはや間違っていたかもしれないとは言いにくい立場にいる。自分の摘発した男性が逮捕され,身柄を拘束されている現実を前にしたとき,この現実とひょっとすれば自分が間違っているかもしれないという疑念とが心理的に折り合わない。これはいわゆる認知的不協和の状態であり,この不協和を解消するためにうそをつくということが起こりうる。事件以前には見ず知らずの第三者でも,事件を摘発し行動を起こした時点では,自分の摘発行為の責任を問われる関係者の立場に立ち,もはや後には引けない気持ちになるからである。表面的にうかがわれる供述の動機からその供述の信用性を判断することには慎重でなければならない。

【可視化された供述過程の原文分析】 供述過程が可視化されていれば,そこでの質問者と供述者の問答のやりとりをテキストとしてその原文分析text analysisが可能になる。

⑴質問形式と応答形式の分析 供述は狭義には供述者の供述であるが,現実には質問者の質問に対する応答として,質問と対をなすコミュニケーションのなかにあり,その過程を離れて成り立つものではない。そこで質問に含まれる情報と応答に含まれる情報を分析することによって,質問者と供述者がそれぞれ,供述情報全体のうち何をどの程度を担っているかを分析することが必要となる。

⑵供述者の供述スキーマの分析 供述者が一人で出来事の流れをひととおり供述する場合,その語り口には供述者の独自のかたちがある。それを語りのスキーマとして取り出し分析する技法としてスキーマ・アプローチscheme approachがある。たとえば法廷でも自白を維持した1990年の足利事件の被告人は,自分と相手とがかかわって実際に体験した出来事については,「私が~する」と「相手が~する」というかたちで,自分の行為と相手の行為を交互に語って出来事の流れを描く行為連鎖的な語り口をするのに対して,犯行自白の語りにおいては,「私が~する」次に「私が~する」というかたちで,自分の行為だけを順繰りに語るという行為連続的な語り口になってしまい,そこには相手である被害者の行為や反応が入ってこない。この語り口の変化は,後者の語りが自身の体験に起源をもたない虚偽の自白である可能性を強く示唆するものである。この事件については,その後,この被告人が無実であることがDNA鑑定で証明されることになった。

⑶司法面接の技法 供述過程の可視化がなされれば,供述調書上の供述に対して検討されてきた供述分析に加えて,体験記憶に起源をもつ供述とそれ以外の供述とを判別する種々の分析方法が新たに展開されうる。それと同時に,供述聴取の場の中から,できる限り供述の歪曲要因を排除する方法が開発されていくことも期待される。とりわけ子どもや知的障害者など,誘導の危険性が高く配慮を要する人たちへの司法面接forensic interviewが刑事捜査のみならず福祉の現場に具体的に導入され,より的確な供述聴取が行なわれるようになることが期待されている。 →虚偽自白 →裁判心理学 →司法面接 →認知面接 →目撃証言
〔浜田 寿美男〕

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