化学辞典 第2版 「同位体の分離」の解説
同位体の分離
ドウイタイノブンリ
separation of isotopes
複数の同位体が存在する元素について,ある特定の同位体を分離もしくは濃縮すること(同位体濃縮).同位体は互いに化学的性質がほとんど同じなので分離するのは難しいが,質量数,核スピン,核の大きさや形が違うことを利用して分離,濃縮が行われている.1913年,イギリスのF.W. Aston(アストン)が気体拡散法で 20Ne と 22Ne を分離し,微量てんびんで確認したのが同位体分離の最初である.同位体分離には気体拡散法のほかに,電磁分離法,遠心分離法,電気分解法,蒸留法,イオン交換法,溶媒抽出法,化学交換反応法,光化学反応法など多くの方法がある.このうち,電磁分離法では同位体を含むイオンを電場で加速した後,磁場によって飛行進路を曲げて同位体を分離する.この方法はすべての元素の同位体分離に適用できるが,収量は少ない.気体拡散法の一種である気体噴散法では,気体の平均速度が気体の質量の1/2乗に反比例することを利用し,細孔を通して気体を噴出させる.すると,分子量の小さいものほど通過速度が大きいので,噴出速度の速いものと遅いものとで分離濃縮が可能になる.この方法が 235U の大量分離に用いられた.イオン交換法は,イオン交換体と外部溶液間の同位体交換反応に現れる熱力学的同位体効果を巧みに利用したもので,リチウム,窒素,ホウ素,ニッケル,ウランなど多くの元素の同位体の分離濃縮に適用されている.化学交換法は,イオン交換法と同様に同位体交換反応の同位体効果を利用し,種々の元素に適用されている.電気分解法は,電気分解の際に現れる同位体効果を利用したもので,たとえば水(H2O)に含まれている重水素(2H)やトリチウム(T)を分離濃縮するのに用いられる.最近,固体高分子電解質を用いた電気分解法が考案され,水から重水素やトリチウムを安全に効率よく分離濃縮できるようになった.遠心分離法は,同位体の質量の差を利用するもので,ウランのような重い元素の同位体の分離濃縮に適している.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報