アストン(読み)あすとん(その他表記)Francis William Aston

デジタル大辞泉 「アストン」の意味・読み・例文・類語

アストン(Francis William Aston)

[1877~1945]英国の物理学者・化学者。同位元素の発見者。質量分析器を発明。1922年、ノーベル化学賞を受賞。

アストン(William George Aston)

[1841~1911]英国の外交官。駐日英国公使館の通訳として来日、日本文化を研究。英訳「日本書紀」、著「日本文学史」「日本口語文典」など。

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精選版 日本国語大辞典 「アストン」の意味・読み・例文・類語

アストン

  1. [ 一 ] ( Francis William Aston フランシス=ウィリアム━ ) イギリスの物理学者、化学者。質量分析器を改良して多数の元素の同位体(元素)を分離し、その原子量を精密に測定。一九二二年ノーベル化学賞を受賞。(一八七七‐一九四五
  2. [ 二 ] ( William George Aston ウィリアム=ジョージ━ ) イギリスの外交官。日本研究家。文久四年(一八六四)イギリス公使館付日本語通訳生として来日。「日本書紀」の英訳のほか、著書「日本口語法」「日本文学史」「神道」など。(一八四一‐一九一一

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アストン」の意味・わかりやすい解説

アストン(Francis William Aston)
あすとん
Francis William Aston
(1877―1945)

イギリスの実験化学者で、かつ物理学者。バーミンガム近くのハーボーンに生まれる。メーソン・カレッジ(後のバーミンガム大学)で学んだのち、フランクランドPercy Faraday Frankland(1858―1946)のもとで化学を研究、その後J・H・ポインティングのもとで物理を学んだ。1910年にケンブリッジキャベンディッシュ研究所でJ・J・トムソンの助手となった。第一次世界大戦中は王立航空機工場に勤め、戦後研究所に戻り、1919年にはトリニティ・カレッジの特別研究員に選ばれた。

 1910年当時、トムソンは、正に荷電した粒子線(陽極線)の研究をしており、アストンはそのもとで放電管や真空ポンプの改良、放物線状の軌跡をとらえるカメラのくふうなどを行った。こうした彼の仕事は、1912年にトムソンが発表した、ネオンの陽極線が電磁場の作用で二つに分離する実験に大きく寄与した。トムソンは分離した軌跡をネオンの水素化合物と考えようとしたが、アストンはネオンの同位元素(アイソトープ)と考えた。この仮説を証明するために、アストンは、質量の違う粒子線のそれぞれを写真乾板上に集束させて線スペクトルを得る方法をくふうし1919年に質量分析器を完成した。この装置で数多くの非放射性同位元素の分離に成功し、また酸素を16.0としたとき、水素を除く元素の原子量が、のちに質量数とよばれる整数の値を近似的にとることを示した。このことは、すべての元素の原子核が共通の構成要素、プロトン(陽子)から構成されているという仮説を可能にし、研究者たちの核の構造についての興味を刺激した。

 ついで原子量の質量数からのずれを精密に測定するための高精度の質量分析器を開発し、測定したずれを質量数で割った量が、質量数に対して滑らかな曲線を描くことを明らかにした(1927)。彼はこのずれを、プロトンが強く結合するために生じる質量の損失によるものと説明し、この結合エネルギーを解放するような実験の危険性を警告した。これらの見通しの正しさは、その後の多くの原子核実験で立証されている。生涯を独身で過ごした。優れた実験家であったが、共同研究を好まなかったといわれる。「質量分析による非放射性元素の同位体の発見、整数法則の発見」により、1922年にノーベル化学賞を受けた。

[川合葉子]


アストン(William George Aston)
あすとん
William George Aston
(1841―1911)

イギリスの外交官、日本学者。アイルランドロンドンデリー近郊に生まれる。クイーンズ大学卒業。1864年(元治1)来日し、駐日イギリス領事館に勤務、1884年駐朝鮮イギリス総領事、1886年(明治19)から駐日公使館書記官となり、1889年帰国した。サトー、B・H・チェンバレンらとともに日本アジア協会会報の重要な執筆者の一人で、『日本書紀』の翻訳や、『日本文学史』(1899)、『神道』(1905)などを著して日本の古代史や宗教を西欧に紹介した。日本語についても『簡約日本口語文典』(1869)や『日本文語文典』(1872)を出すなど欧米人の日本研究において、J・J・ホフマンに次ぐ新時代を築いた。

[古田 啓 2018年6月19日]

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改訂新版 世界大百科事典 「アストン」の意味・わかりやすい解説

アストン
Francis William Aston
生没年:1877-1945

イギリスの化学者,物理学者。質量分析器の開発者,同位体研究の第一人者として知られる。メーソンズ・カレッジ(後のバーミンガム大学)でフランクランドEdward Franklandらに化学を学ぶ。醸造技術者として1900年から03年まで働いたのち再び大学に戻り,ポインティングJohn Henry Poyntingのもとで真空放電の研究に従事。真空ポンプの改良や陰極線アストン暗部の発見などを行い実験的才能を発揮した。10年キャベンディシュ研究所のJ.J.トムソンの助手となり,陽極線の研究を行う。とくにネオン線の研究から,質量数20と質量数22に相当する放物線軌道を見いだし,ネオンに同位体があるという着想をいだく。第1次大戦により研究は一時中断したが,戦後研究を再開。19年質量分析器を開発し,詳細な分析を行い多数の同位体の発見,その存在比の確定などをなしとげた。その後さらに精度の高い質量分析器を製作し(1927,35),既知元素のほとんどすべての同位体を発見した。22年ノーベル化学賞受賞。
執筆者:


アストン
William George Aston
生没年:1841-1911

イギリスの外交官,日本学者。アイルランドの生れ。1864年(元治1)イギリス公使館通訳として来日,公使パークスの下でアーネスト・サトーといっしょに働く。一時朝鮮総領事もつとめたが,89年(明治22)帰国するまで長く日本に滞在。日本語に精通し,《日本書紀》の初めての外国語訳となった英訳(1896)をはじめ,《日本語文法》(《口語》1869,《文語》1872),《日本文学史》(1899),《神道》(1905)など英文の著作がある。とくに《日本語と朝鮮語の比較研究》(1879)は,この二つの言語の間に〈本質的な関係が存在する〉ことを論じ,金沢庄三郎の《日韓両国語同系論》(1910)の先駆をなすものである。
執筆者:

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化学辞典 第2版 「アストン」の解説

アストン
アストン
Aston, Francis William

イギリスの化学者,物理学者.バーミンガム大学で化学を学ぶ.1900~1903年醸造技術者として働いたのち,ふたたび大学に戻り,J.H. Pointingのもとで物理学を学ぶ.1908年水素やヘリウムなどの気体放電の研究で,陰極に隣接する暗部(アストン暗部)を発見した.1910年キャベンディッシュ研究所のJ.J. Thomsonの助手となり,陽極線の研究を行う.Thomsonが発見した原子量22の気体を研究し,1919年に質量分析器を開発し,非放射性元素であるネオン原子にも質量20と22の同位体が存在することを確証した.また,16Oを原子量単位とする整数法則を発表した.既知元素のほぼすべての同位体を発見し,1927年にはその存在比と質量欠損と質量数の関係を示した.1922年“質量スペクトルによる多数の非放射性元素の同位体の発見および整数法則の発表”でノーベル化学賞を受賞した.

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朝日日本歴史人物事典 「アストン」の解説

アストン

没年:1911.11.22(1911.11.22)
生年:1841.4.9
幕末明治に来日したイギリスの外交官,日本学者。アイルランドに生まれ,同地の大学を卒業,元治1(1864)年文官(極東勤務)試験に合格した在日公使館付日本語通訳生として来日。慶応3(1867)年12月3等補佐,兵庫(神戸)在勤となり,王政復古宣言に発する激動の時期に通訳官代行として活躍。明治3(1870)年10月公使館付通訳兼翻訳官に昇進,賜暇帰国中の1872年岩倉遣外使節団を迎えてイギリス側通訳を務める。15年4月長崎領事。1884年初代朝鮮総領事としてソウルへ赴任し甲申事変に遭遇。明治19年在日公使館日本語書記官。明治22年退官。帰国後は日本の言語,文化の研究に専念し,明治期日本学の三大学者のひとりに数えられる。<著作>《Nihongi,chroniclesofJapanfromtheearliesttimes toA.D.697》(『日本書紀』の英訳)《AhistoryofJapan‐ ese literature》《Shinto,the way of the Gods》

(廣瀬靖子)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アストン」の意味・わかりやすい解説

アストン
Aston, Francis William

[生]1877.9.1. バーミンガム,ハーボーン
[没]1945.11.20. ケンブリッジ
イギリスの化学者,物理学者。バーミンガム大学で化学を修めたのち,X線の発見 (1895) や放射能の発見 (96) に刺激されて物理学に興味をもつようになった。ケンブリッジ大学で J.J.トムソンの実験助手となり (1910) ,トムソンが初めて非放射性元素ネオンのアイソトープを検出した実験に立会った。第1次世界大戦終了後,ケンブリッジ大学に戻り,質量分析器を考案してトムソンの実験の検証に着手。その結果ほとんどの元素にアイソトープが存在することを見出し,元素の原子量の算出を行なった。これらは 1920年代の原子物理学の発展に欠くことのできないものであった。 22年ノーベル化学賞受賞。

アストン
Aston, William George

[生]1841. アイルランド,ロンドンデリー
[没]1911
イギリスの外交官。 1864年公使館通訳生として来日。日本文化の研究に従事。『日本口語小文典』 Short Grammar of the Japanese Spoken Language (1871) は日本語の口語研究として日本人に先んじたもの。『日本語と朝鮮語の比較研究』A Comparative Study of the Japanese and Korean Languages (79) で日本語=朝鮮語同系説を唱えた。日本文学史や『日本書紀』の英訳もある。 89年帰国。

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百科事典マイペディア 「アストン」の意味・わかりやすい解説

アストン

英国の外交官,日本研究家。1864年,英国公使館通訳として来日し,アーネスト・サトーの同僚として働く。日本の語学,文学,歴史,宗教などを研究。1889年帰国。《日本書紀》の初の外国語訳である英訳のほか,《日本文学史》等の著書がある。

アストン

英国の化学者,物理学者。バーミンガムのメーソンズ・カレッジで化学を学んだのち気体放電の研究に転じ,1909年ケンブリッジ大学キャベンディシュ研究所に移ってJ.J.トムソンの助手となり,ネオンの同位元素の分離を研究。のち質量分析器を創案,多くの同位元素を分離し,その質量の精密な測定を行った。1922年ノーベル化学賞。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「アストン」の解説

アストン Aston, William George

1841-1911 イギリスの外交官,日本学者。
1841年4月9日生まれ。元治(げんじ)元年(1864)駐日イギリス公使館通訳として来日。長崎領事,朝鮮総領事,駐日公使館書記官などを歴任,明治22年退官。1911年11月22日死去。70歳。アイルランド出身。クイーンズ大卒。著作に「日本文語文典」「日本文学史」など。

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世界大百科事典(旧版)内のアストンの言及

【同位体】より


[同位体の分離,濃縮]
 同位体は化学的性質がきわめてよく似ているので,主として物理的性質の差を利用して分離あるいは濃縮する。同位体分離は1913年イギリスのF.W.アストンが気体拡散法によって20Neと22Neを分離したのが初めである。同位体分離法にはいろいろあるが,いずれも同位体効果を利用したものであり,分別蒸留,同位体交換,気体拡散,遠心分離,電解分離,ノズルによる気体噴散などの方法が主として用いられている。…

【日本語】より

…それらの日本語系統論は,大きく北方説と南方説とに分けることができる。(1)北方説 朝鮮語との同系説が有名で,古くはW.G.アストンが《日本語と朝鮮語との比較研究》(1879)において両言語の親族関係を認めている(例,〈水〉日midu:朝mɯl)。金沢庄三郎も《日韓両国語同系論》(1910)を発表し,同一起源説を主張した(例,〈われわれ〉日ware:朝uri)。…

※「アストン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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