日本大百科全書(ニッポニカ) 「リチウム」の意味・わかりやすい解説
リチウム
りちうむ
lithium
周期表第1族に属し、アルカリ金属元素の一つ。
歴史
リチウムを含む鉱石、葉長石とリチア輝石は、1790年から1800年にかけて、スウェーデンのウテUtö島でアンドラダJose de Andradaによって発見されている。この葉長石の中に新しいアルカリ金属元素が含まれていることをみいだしたのはスウェーデンのアルフェドソンJohan August Arfvedson(1792―1841)で、1817年であった。リチウムの名は、ギリシア語の石lithosにちなんで、アルフェドソンの指導者ベルツェリウスによって提案された。ナトリウムやカリウムが植物関連物質からみいだされたのに対し、リチウムが鉱石からみいだされたことに基づいている。1818年W・TブランデBrandéとH・デービーは酸化リチウムを電解して少量のリチウム金属を単離しているが、物性の測定ができるほどの量を初めて得たのは、ドイツのブンゼンとイギリスのマチーセンAugustus Mathiessen(1831―1870)で、塩化リチウムの融解電解によって1855年に成功している。
[鳥居泰男]
存在
岩石や天然水の中に微量ではあるが広く分布している。動植物界たとえば海藻、タバコ、コーヒー、牛乳、血液などにも存在が認められる。工業資源として重要な鉱石はリチア輝石AlLi(SiO3)2、紅雲母(うんも)AlKLi2(FeOH)2(Si4O10)、葉長石AlLi(Si2O5)2、アンブリゴ石AlPO4・LiFなどである。天然塩水で数百ppmを含むものがアメリカのカリフォルニア州、ネバダ州などでみいだされており、資源として注目される。
[鳥居泰男]
製法
原鉱を硫酸、炭酸ナトリウム、塩酸などで処理して塩化リチウムとし、これに塩化カリウムを加えて融解電解することによって製造される。ピリジン、エタノール(エチルアルコール)、アセトンなどの中で塩化リチウムを電解する方法も行われる。
[鳥居泰男]
性質と用途
銀白色の軟らかい金属で、全金属元素中もっとも軽い。アルカリ金属元素の典型的な性質をもっていると同時に、ナトリウム以下とはかなり異なった性格を示し、むしろ、周期表で対角関係にあるマグネシウムに似た点も多い。乾燥空気中では安定でほとんど酸化されないが、熱すれば強い光を放って反応し酸化物Li2Oを与える(一般のアルカリ金属は過酸化物、超酸化物を与える)。
4Li+O2→2Li2O
室温でも窒素と反応して窒化物Li3Nを生成する(他のアルカリ金属は直接反応しない)。室温で水を分解して水素を発生するが、カリウムやナトリウムほど激しく作用しない。
2Li+2H2O→2LiOH+H2
高温でガラスと反応するので蒸留精製には鉄製容器が必要である。赤色の炎色反応を示す。この炎色反応を初めて観察したのは、ドイツのC・G・グメーリンであった(1818)。
金属として原子炉材料、有機合成の重合触媒などに用いられるほか、各種合金の添加剤、鋼材、合金の脱酸剤などとして最近その重要性が増している。
[鳥居泰男]
リチウム(データノート)
りちうむでーたのーと
リチウム
元素記号 Li
原子番号 3
原子量 6.941±3
融点 180.54℃
沸点 1350℃
比重 0.534(測定温度20℃)
結晶系 立方
元素存在度 宇宙 45(第32位)
(Si106個当りの原子数)
地殻 20ppm(第31位)
海水 0.18×103μg/dm3