翻訳|electrolysis
水素と酸素から水を生成する反応2H2+O2─→2H2Oはその自由エネルギー変化⊿Gが負であるので,自発的に起こりうるが,その逆反応である水の分解により水素と酸素が生成する反応2H2O─→2H2+O2は⊿Gが正となるため,自発的には起こりえない。このような自発的には起こりえない反応に対し,外部から系に電気エネルギーを与えて,その反応を起こさせるのが電気分解で,電解と略称されることも多い。電気分解を行う装置が電解槽で,電解槽は陽極,陰極と呼ぶ二つの電極,電解液(電解質溶液あるいは融解電解質),および容器よりなる。ときには,陽極で生成した物質と陰極で生成した物質の混合を防ぐ目的で,隔膜を用いることもある。水電解の場合には,電解液に水酸化ナトリウムNaOHの水溶液,陽極にニッケル,陰極にニッケルめっきした鉄,隔膜としてアスベスト隔膜が用いられる。両極間に直流電圧を与えると,陽極では
4OH⁻─→O2+2H2O+4e⁻ ……(1)
の酸化反応,陰極では
4H2O+4e⁻─→2H2+4OH⁻ ……(2)
の還元反応が起こり,液中ではOH⁻イオンが陰極側から陽極側に移動して電流を運ぶ。全反応は,(1)と(2)を加えた
2H2O─→2H2+O2 ……(3)
となる。水電解の例からわかるように,陽極では電子を失う反応(金属の溶解や酸素の発生などの酸化反応),陰極では電子を受け取る反応(金属の析出や水素の発生などの還元反応)が起こる。換言すれば電気分解は本質的には酸化還元反応である。電気分解の際の電気量と析出する物質量は1化学当量を析出するのに9万6487Cの電気量を必要とする(ファラデーの法則)。この電気量をファラデー定数と称しFで表す。電気分解は反応が起こるために必要な⊿Gを電気エネルギーとして供給するものであるから,最低限必要な電圧Erは
ZFEr=⊿G
で決まる。ここでZFは電解により両極で授受される電気量で,水電解では(1)(2)式からわかるようにZ=4になる。Erを理論分解電圧という。実際の電解ではErより大きい槽電圧(理論値との差が過電圧)を与える必要がある。電気分解は,蓄電池の充電,電解製錬,電鋳,電気めっき,電解研磨,電解による化学合成など工業的に広く利用されており,電解重量分析など化学分析にも利用されている。
執筆者:笛木 和雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
電解質水溶液あるいは溶融塩などのイオン伝導体に、電流を流して化学変化をおこさせることをいう。略して電解ともいう。実際には電流を流すためにイオン伝導体の中に1対の電極(金属や黒鉛などの棒状あるいは板状の導体)を挿入し、これに直流電源を接続する。電流を流すことにより、陽イオンはより電位の低いほうの電極(陰極という)のほうに、陰イオンは電位の高いほうの電極(陽極という)のほうに電気的に引かれて移動してきて、電極表面でイオンの電荷が中和され(放電)、化学変化をおこす。
たとえば、白金電極を用い食塩水を電解した場合、陽極では、
Cl- ―→ Cl+e, 2Cl ―→ Cl2↑
のように気体の塩素を発生し、一方陰極では、
Na++e ―→ Na,
Na+H2O ―→ Na++OH-+H,
2H → H2↑
となり、結局、水素イオンがナトリウムイオンのかわりに放電したのと同じ結果で、水素を発生する。
また、硫酸銅の水溶液中に1対の銅板電極をつけて電解すると、陽極上では、
Cu―→Cu2++2e
陰極上では、
Cu2++2e―→Cu
と、それぞれ金属銅の溶解(イオン化)と金属銅の析出がおこる。このように一般に、陽極においては金属が陽イオンになったり、陰イオンが原子や分子になったりする反応――酸化反応がおこり、陰極においては陽イオンが原子や分子になったり、金属として析出する反応――還元反応がおこる。電解生成物がひきつづいて得られるために必要な最小電圧を分解電圧decomposition voltageという。電解の際の電気量と生成する物質の量との間にはファラデーの法則が成立する。
電気分解は実際に工業的にも広く利用されている。そのなかには電解分析、電気冶金(やきん)、電解研摩、電気めっき、電解コンデンサーの製造など、また食塩水の電気分解による塩素およびカ性ソーダ(水酸化ナトリウム)の製造などがある。
[戸田源治郎]
電解ともいう.外部電源から電流を供給することにより,主として水溶液,溶融塩中で化学反応を自由エネルギーの増大する方向に進行させる操作.化学反応をアノード反応(電子を放出する反応)とカソード反応(電子を受けとる反応)に分け,それぞれアノード(陽極),カソード(陰極)で起こるように設定すると電池が構成される.電池反応では,自由エネルギーの減少する方向に反応が進行し,外部に電流を供給する.すなわち,電解反応は,電池反応の逆反応である.また,電池の起電力(開路電圧,open circuit voltage)は,電解に必要な最小電圧であり,理論分解電圧(theoretical decomposition voltage)とよばれる.また,理論分解電圧を操業槽電圧で割ったものは電圧効率,さらに電圧効率に電流効率を乗じたものは電力効率とよばれ,おもに工業電解技術者により用いられている.[別用語参照]ファラデーの法則
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…電池系に電流を流して電気分解を進行させるには,電池を構成している各電極系の電極電位を平衡時の値(平衡電極電位)からずらさなければならない。すなわち,電極系の平衡を破らねばならない。…
※「電気分解」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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