周期性四肢麻痺

内科学 第10版 「周期性四肢麻痺」の解説

周期性四肢麻痺(筋疾患)

定義・概念
 周期性四肢麻痺は,誘因により随意筋に発作性に反復する可逆性の弛緩性麻痺を生じる疾患である.わが国で最も多いのは非遺伝性の甲状腺機能亢進症に伴う低カリウム性周期性四肢麻痺である.遺伝性ではカルシウムナトリウムイオンチャネルの異常により発症する.分類 麻痺発作時の血清K値より低カリウム性,高カリウム性,正カリウム性の3種に分類される.正カリウム性は家族性しか報告はないが,残りは家族性と症候性に分けられる.
原因・病因
 家族性ではイオンチャネル遺伝子の変異が明らかになっている.家族性低カリウム性周期性四肢麻痺はタイプ1とタイプ2に分けられ,タイプ1は第1染色体にある骨格筋型Caチャネルαサブユニット(CACNA1S)遺伝子の変異によりチャネルが機能不全となり,脱分極の情報が筋小胞体のリアノジン受容体に伝わらなくなって発症する.タイプ2は第17染色体にあるSCN4A遺伝子の変異により,コードされているNaチャネル(Nav1.4)の電位センサーであるS4の機能が変化し,gating poreとよばれる微小電流が流れる通路が過分極状態で活性化する性質をもつため,安静時にも細胞内へ少量の陽イオンが流れつづけるため発症する.
 家族性高カリウム性周期性四肢麻痺は,Naチャネル(Nav1.4)のS4セグメントの機能変化により電位感受性が亢進した結果,チャネルに電流が流れつづけ脱分極性麻痺を生じる.
疫学
 日本の筋疾患の中で周期性四肢麻痺の相対頻度は約10%,有病率は0.5~4.1であり,まれな疾患ではない.家族性低カリウム性は常染色体優性遺伝であるが,浸透率は男性が100%に対し女性はきわめて少ない.甲状腺機能亢進症に伴う低カリウム性周期性四肢麻痺の割合はわが国では8.2%と高く,男性は女性の10倍である.甲状腺ホルモン値とは関連はなく,特定の単一遺伝子多型(SNP)が関与するとされる.
 発症年齢は低カリウム性で10~20歳,甲状腺機能亢進に伴うものは20~30歳である.高カリウム性と正カリウム性は10歳以下で発症する. 共通する誘発因子は運動後の休息,寒冷,ストレスで,さらに低カリウム性では過食や過労,アルコールなどが影響し,正カリウム性は長時間の座位や臥位でも生じる.
病理
 麻痺発作時の筋には各病型によらず空胞(vacuole),小管構造の集合(tubular aggregates),タイプ2線維の萎縮を認める.この空胞はT管の終末部や筋小胞体の増生によるものである.
病態生理
 遺伝性の高カリウム性と正カリウム性の場合は,Naチャネルの電位感受性セグメントの機能変化により細胞内にNaイオンが流入しつづけるため,新たな興奮刺激に反応できず弛緩性麻痺を生じる.またイオンの流入の程度により脱分極と再分極が繰り返されるとミオトニー現象が生じる. 一方低カリウム性の場合は,Caチャネルのなかの電位センサーであるαサブユニットの機能低下により脱分極の信号が筋小胞体のリアノジン受容体に伝達されないため麻痺が起こると考えられている.麻痺の際にはK値は血清中でも尿中でも低下しており,細胞内へ移行している.
 症候性に発症するのは,低カリウム性では甲状腺機能亢進症,原発性アルドステロン症,Bartter症候群,カリウム喪失性腎症などがあり,高カリウム性ではAddison病,腎不全,低アルドステロン症を基礎疾患として発症する.
臨床症状
 自覚症状としては,何もないことが多いが,軽度の脱力感,筋肉痛,筋のこわばりなどがある.麻痺時には動悸,発汗,熱感,悪心,嘔吐,頭痛,筋痛,などが認められる.
 他覚症状としては,弛緩性四肢麻痺,筋緊張低下が近位筋から始まる.低カリウム性の場合の頻度は誘因にもよるが1~2カ月に1回で,数時間から1日程度不全麻痺あるいは完全麻痺が持続する.高カリウム性の発作頻度は高く毎週みられるが,持続時間は1時間以内の不全麻痺である.正カリウム性の頻度は毎週から数カ月に1回で,持続は2日~3週間にわたり不全あるいは完全麻痺を呈する.検査成績 麻痺発作時の血清Kが低値,高値,正常かでタイプを判別するが,低カリウム性でも麻痺から改善しはじめる途中は高値になる時期もあり,経過をみて総合的に判定することが大切である.心電図ではK値に対応した変化が認められる. 筋電図検査は診断に有用で,ミオトニー放電の確認や,short exercise test,long exercise testが行われる(有村ら,2001).
診断・鑑別診断
 弛緩性四肢麻痺を示す疾患を鑑別する.病歴を確認し反復しておけば可能性が出てくる.血清K値を変化させる誘発テストを行った時代があるが,心停止の報告もあり最近は行われない.詳細な病歴,筋電図検査,遺伝子検査,などを行い総合的に診断する.
治療・予防・リハビリテーション
 麻痺発作時の治療はK値の是正であり,低値であればKの経口投与を行う.点滴静注は回復しはじめると細胞内からカリウムが出てきて,予想以上に高値になる場合もあるので注意が必要である.高カリウム性の場合は心電図をモニターしながらグルコン酸カルシウムをゆっくり点滴静注する.正カリウム性の場合は塩化ナトリウムを5~10 g経口投与する.発作予防には低カリウム性では継続的にKを摂取するとともに,甘いものを多量に食べるとインスリンが過剰に分泌されKが細胞内に取り込まれて低K値になるので避けるよう指導する.逆に高カリウム性の場合は,常にKをとりすぎないように注意し,糖質も多目に摂取する.
 リハビリテーションとしては軽い運動は有効であるが,激しい運動後に急に休むと麻痺が出やすい.[依藤史郎]
■文献
有村由美子,迫田俊一,他:筋チャネル異常症の電気生理診断は可能か.臨床神経生理学,29: 221-227, 2001.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「周期性四肢麻痺」の解説

周期性四肢麻痺
しゅうきせいししまひ
Periodic paralysis
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 体細胞の内外では、電解質の濃度に差があります。内外の濃度差を調節するために、細胞膜にはさまざまなチャンネル(通路)が存在しています。周期性四肢麻痺はこれらのチャンネルの異常で起こる病気です。

 最近は遺伝子検索が発達して、低カリウム血性周期性四肢麻痺は第1番染色体にあるカルシウムチャンネルの遺伝子異常、高カリウム血性の場合は第17番染色体にあるナトリウムチャンネルの遺伝子異常であることが判明してきています。これらの病気は、チャンネロパチーと総称されるようになってきています。

 周期性四肢麻痺は従来、発作時の血清カリウム値により低カリウム血性、高カリウム血性、正カリウム血性と分類されてきました。一般に常染色体優性遺伝(じょうせんしょくたいゆうせいいでん)疾患です。

 東洋では、西欧に比べて患者さんの数が多いとされてきました。多くは、甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)に伴った低カリウム血性周期性四肢麻痺だったのですが、最近では西欧と同様にまれな病気になってきています。

症状の現れ方

 急に脱力が発生します。筋痛があることもありますが、程度は軽症です。

 典型的な低カリウム血性の場合は、お祭りなどでたくさんご馳走を食べた翌朝に起き上がれなくなるというものです。発作のない間欠期には症状はありません。

 高カリウム血性は、パラミオトニーという病気と同じといわれています。これは、筋収縮後に自分の意志で筋肉を弛緩(しかん)できないというミオトニーの症状に加えて、寒冷にさらされると脱力を引き起こしますが、まれな病気です。

検査と診断

 発作時には、まず血清カリウムの値をチェックして分類します。発作誘発試験としては、低カリウム血性の場合は飽食試験やインスリンと糖液を点滴する方法、高カリウム血性ではカリウム液を投与する方法などがあります。しかし、試験で血清カリウムを上下させることは、心臓に対して悪影響を及ぼすので、最近ではあまり行われなくなっています。

 組織の一部を採取して調べる筋生検では、空胞や筋小胞体の異常増殖した構造物が筋肉内に認められるのが特徴です。

 遺伝子検査が確定診断となりますが、日本では専門家が少ないため、あまり行われていません。

治療の方法

 甲状腺機能亢進症に伴う低カリウム血性周期性四肢麻痺では、甲状腺機能亢進症の治療が必要です。原因がない場合はアセタゾラミドの投与がすすめられます。低カリウム血性では、カリウム剤の投与やスピロノラクトンの投与なども行われます。

 生活面では、低カリウム血性の場合は炭水化物をとりすぎないように注意してください。

石原 傳幸

周期性四肢麻痺
しゅうきせいししまひ
Periodic paralysis
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 反復する発作性の四肢弛緩性麻痺を示す病気です。弛緩性麻痺とは、筋緊張の低下した麻痺のことです。

原因は何か

 細胞外カリウムが何らかの理由で筋細胞内に取り込まれて血清カリウムが低値となり、筋細胞膜が脱分極状態に陥り、筋線維があらゆる刺激に反応できなくなって弛緩性麻痺になると考えられています。

 周期性四肢麻痺は、発作時の血清カリウム値によって低カリウム血性、高カリウム血性に分類されます。低カリウム血症に伴う病型が一番多く、常染色体優生遺伝の原発性低カリウム血性周期性四肢麻痺と、甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)を伴った続発性低カリウム血性周期性四肢麻痺が主な病気です。

症状の現れ方

 重症は幼児期から、軽症は20代に発症します。四肢骨格筋の弛緩性麻痺を、発作的に不規則な間隔で繰り返します。初期には発作は頻繁ではなく、数カ月に1回くらいですが、次第に多くなり激しくなると毎日起こるようになります。

 麻痺の重症度はその都度違います。呼吸筋や顔面筋は侵されにくく、発作は数時間から数日続き、安静にしていると自然におさまります。

 過労や過食が発作の誘因となり、発作は安静時の後に起こりやすく、夜半や明け方に多く起こります。

検査と診断

 発作誘発試験としてのエピネフリン試験は信頼性の高い検査です。エピネフリン(アドレナリン)を注射して、筋電図で筋収縮の減少を判定します。また、グルコース負荷試験で麻痺の誘発を確認します。臨床症状や、非発作時は正常の血清カリウム値が発作時には低カリウム血症となることや、発作誘発試験などで診断します。

 最近、原発性低カリウム血性周期性四肢麻痺ではCACNL1A3遺伝子の異常が発見されました。

治療の方法

 軽い発作は治療の必要はありません。重症の発作時には、血清カリウムの値を測定して塩化カリウムを経口摂取します。発作の予防には炭水化物の多量摂取を控え、過度な肉体労働を避けることが大切です。

 甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)を伴った続発性低カリウム血性周期性四肢麻痺の場合は、発作時の治療法は同じですが、非発作時の予防は甲状腺機能のコントロールとともに低炭水化物食、低ナトリウム食をとることが大切です。

病気に気づいたらどうする

 早期に神経内科や内科を受診してください。

藤井 正司

周期性四肢麻痺
(内分泌系とビタミンの病気)

 バセドウ病の患者さんで、飲酒や甘い物を大量に食べたあと、突然手足に力が入らなくなり、動けなくなることがあります。

 通常は数時間で自然に動けるようになります。時々起こるという意味で周期性という言葉が使われていますが、本当に周期的に起こるわけではありません。

 原因は、甲状腺機能亢進状態(こうじょうせんきのうこうしんじょうたい)の時に血糖が増えるとインスリンの作用により血液のなかのカリウムが急激に低下し、そのために筋肉がうまく収縮できなくなるためだと考えられています。しかし、なぜ東洋人の男性に多く起こるのかなど、わかっていないことも多い病気です。

 この病気は、バセドウ病の治療により甲状腺のホルモンが正常になれば起こらなくなります。また、原則として呼吸筋など生命の維持に必要な筋肉には麻痺は起こらないので、あまり心配することはありません。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「周期性四肢麻痺」の意味・わかりやすい解説

周期性四肢麻痺
しゅうきせいししまひ

上・下肢の筋肉に力が入らなくなり運動ができなくなる発作が、ある期間を置いて繰り返しおこる疾患で、普段は異常がみられない。男性に多く、発作中でも意識、言語、感覚は正常である。麻痺をおこしているとき、血液中のカリウムが多くの場合は低下しているが、正常値あるいは高値を示す患者もある。また、遺伝によっておこるものと、他の疾患に合併しておこるものとがあり、欧米では遺伝性の家族性周期性四肢麻痺が多く、日本では甲状腺(せん)機能亢進(こうしん)に合併する低カリウム血性周期性四肢麻痺が多い。炭水化物の過食、飲酒、過労などが麻痺の誘因となる。なお、治療としては、低カリウム血性の場合にはカリウム剤が有効で、甲状腺機能亢進を合併している場合はこれに対する治療も必要である。

[海老原進一郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

栄養・生化学辞典 「周期性四肢麻痺」の解説

周期性四肢麻痺

 →周期性麻痺

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