四肢の軟部組織外傷〈総論〉

六訂版 家庭医学大全科 の解説

四肢の軟部組織外傷〈総論〉

(運動器系の病気(外傷を含む))

 四肢軟部組織(ししなんぶそしき)損傷として問題になる組織には、筋(筋肉)、(けん)靭帯(じんたい)半月板(はんげつばん)三角線維軟骨(さんかくせんいなんこつ)などがあります。

 軟部組織損傷では、骨折と違って、疼痛(とうつう)がさほど強くない場合があり、このため、患者さんが自己判断で放置している場合が多々あります。

 また、いずれの組織も単純X線写真には写らないため、X線写真が正常だからといって、内服薬湿布だけで治療していると、治らないことも少なくありません。これは、的確な治療を行わないと、組織が治る方向に進まないからで、疼痛が持続したり、関節運動に支障が出たりします。時間の経過とともに、元の状態に治ることが不可能になる場合もあります。

 ここでは、各組織の損傷の一般的な特徴と治療の考え方や注意点について述べます。同じような組織でも部位によって、けがの特徴と治り方の特徴があります。詳しいことは各項目を参照してください。

●筋腱の損傷

 筋腱のはたらきは、骨に力を与えて、関節を動かすことです。したがって、損傷があると、関節運動が損なわれることになります。

 部分的な破綻(はたん)では、その部分が修復されれば、機能はほぼ元にもどりますが、完全に破綻した場合、とくに、損傷された組織の両断端(だんたん)間が大きく開いてしまった場合、断端同士を寄せないかぎり、元通りに修復されることはありません。緊張が弱くなると、元通りの力は生み出されません。

 受傷機転(けがのしかた)には、外力によって損傷される場合と、強い自家筋力(自分の筋力)によって損傷される場合があります。腱の場合、慢性的な機械的な摩擦炎症波及などが原因で軽微な外力で断裂することもあります(病的断裂(びょうてきだんれつ))。

 筋の損傷は閉鎖性損傷(へいさせいそんしょう)(体表には傷がない)が多く、その場合、損傷時の疼痛は強いのですが、筋周囲を囲む筋膜という組織によって形態はほとんど保たれるので、保存療法が主体になります。

 一方、腱は血流に乏しい組織で、痛みは強くないことが少なくありません。開放性損傷が多く、完全断裂すると、筋に引っ張られて断端が離れてしまうことが多いので、手術を必要とします。閉鎖性損傷の一部は保存療法で治せる場合があります。痛くないからと放っておき、時間が経過すると、筋が短縮して腱の断端同士を寄せることが困難になるので、早期に治療することが重要です。

 また、とくに手指屈筋腱(くっきんけん)損傷は治療が難しく、早期に手術を行うことが必要ですし、手術後の後療法(こうりょうほう)リハビリテーション)が非常に重要です。

靭帯(じんたい)の損傷

 靭帯は、関節において隣接する骨をつなぐ膠原線維(こうげんせんい)で、ある方向への力に対して、隣接する骨同士が離れないように安定化させておくはたらきがあります。したがって、完全に断裂すると、一定方向の力に対して関節が不安定になります。

 ほとんどが閉鎖性損傷なので、断端同士が近い位置にある場合、外固定(がいこてい)を行ったり、動揺性を抑制するブレース装具)の使用によって、保存療法で治療することが可能です。断端が癒合(ゆごう)できない条件がある場合や不安定性が強い場合は、手術が行われます。

 不全断裂(ふぜんだんれつ)の場合、関節の不安定性はないか、あっても軽度です。しかし、治療上、初期に外固定を行うことが重要です。放置した場合は治らず、疼痛が長引き、関節運動が損なわれる可能性があります。

●半月板、三角線維軟骨

 半月板三角線維軟骨は、それぞれ膝関節、手関節内にある線維軟骨と呼ばれる組織で、関節内の支持性組織であると同時に、クッションのようなはたらきをしています。

 血流に乏しいため、一度損傷すると治らず、慢性的な疼痛の原因になります。損傷の状態に応じて、関節鏡視下に一部を切除したり、辺縁部を縫合したりする処置が必要になります。

西浦康正

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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