改訂新版 世界大百科事典 「図像抄」の意味・わかりやすい解説
図像抄 (ずぞうしょう)
平安末~鎌倉時代の仏教図像集。10巻からなり,《十巻抄》《尊容抄》とも称される。撰者は平等房永厳(えいげん)とも勝定房恵什(えじゆう)ともいわれ,自筆本はなくすべて転写本である。1193年(建久4)と推定される醍醐寺本が最も古く,ついで鳴滝常楽院本(1226),善本として高野山真別所円通寺本(1309-10),醍醐寺本図像抄(保賢書写,1230),そのほか東京国立博物館本,高野山西南院本(鎌倉中~末期)などがある。醍醐寺本の奥書には,永厳が鳥羽上皇の命で《図像抄》を作り,保延5年(1139)に献上したことが記される。これに対して文永期(1264-75)の醍醐寺本奥書には〈平等房十巻抄云々真実ニハ恵什闍梨集之〉とあり,また時代の近い心覚も《別尊雑記》の《図像抄》引用はすべて恵什の抄としており,実際には恵什が集録したものと思われるが,史料不足のため確定できない。《図像抄》の内容は,五仏,仏頂等,菩薩,観音上・下,忿怒(ふんぬ),天等上・下の10巻からなり,尊像項目103,図は曼荼羅を含めて142図を収める。諸尊の梵号,密号,種子,三摩耶形(さんまやぎよう),道場観,陀羅尼(真言)を記し,経典儀軌によってその形像を説明する。写本の多くは白描に彩色を施しているため,原本も同様な体裁をなしていたと思われる。尊別に集成された日本ではじめての図像集である。
→仏教図像
執筆者:石田 尚豊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報