陀羅尼(読み)ダラリ

デジタル大辞泉 「陀羅尼」の意味・読み・例文・類語

だらり【×陀羅尼】

《「だらに」の音変化》陀羅尼鐘だらにがねのこと。特に、京都建仁寺東鐘楼の百八陀羅尼鐘をいう。
「どんどんぐりのづしを出づれば建仁寺、―が鳴るぞ、だらつくまいぞ」〈浄・女腹切

だらに【×陀羅尼】

《〈梵〉dhāraṇīの音写総持能持と訳す》梵文ぼんぶんを翻訳しないままで唱えるもので、不思議な力をもつものと信じられる比較的長文の呪文陀羅尼呪。呪。→真言しんごん

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精選版 日本国語大辞典 「陀羅尼」の意味・読み・例文・類語

だらに【陀羅尼】

  1. 〘 名詞 〙 ( [梵語] dhāraṇī の音訳。総持または能持と訳す。よく種々の善法を固くたもつこと、また種々のさわりをさえぎることの意 ) 仏語。すべてのことを心に記憶して忘れない力、それを得る技法、または修行者を守護する力のある章句。特に密教で、一般に長文の梵語を訳さないで、原語のまま音写されたものをいう。陀羅尼経。陀羅尼呪(じゅ)。秘密呪。呪。だらり。〔法華義疏(7C前)〕
    1. [初出の実例]「頂に陀羅尼を載せ、経を負へる意は、俗難に遭は不(じ)となり」(出典:日本霊異記(810‐824)下)

陀羅尼の語誌

( 1 )術としての「陀羅尼」の形式が呪文を唱えることに似ているところから、呪文としての「真言」そのものと混同されるようになった。区別する際には、長文のものを「陀羅尼」、数句からなるものを「真言」、一字二字のものを「種字」とするのが一般的。
( 2 )日本における「陀羅尼」は、形式的に見ると、原語の句を訳さずに漢字の音を写したまま読誦するが、中国を経たために発音が相当に変化し、また意味自体も不明なものが多い。


だらり【陀羅尼】

  1. [ 1 ] ( 「だらに(陀羅尼)」の変化した語 ) =だらに(陀羅尼)
    1. [初出の実例]「寺に咲藤の花もやまんたらり〈一仙〉」(出典:俳諧・阿波手集(1664)春)
  2. [ 2 ]だらにがね(陀羅尼鐘)
    1. [初出の実例]「建仁寺のだらりにふけ行夜半をうらみ」(出典:浮世草子・好色訓蒙図彙(1686)上)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「陀羅尼」の意味・わかりやすい解説

陀羅尼
だらに

能(よ)く総(すべ)ての物事を摂取して保持し、忘失させない念慧(ねんえ)の力をいう。サンスクリット語ダーラニーdhāraīの音写。「保持すること」「保持するもの」の意。陀憐尼(だりんに)、陀隣尼(だりんに)とも書き、総持、能持(のうじ)、能遮(のうしゃ)と意訳する。一種の記憶術であり、一つの事柄を記憶することによってあらゆる事柄を連想して忘れぬようにすることをいい、それは種々な善法を能く持つから能持、種々な悪法を能く遮するから能遮と称する。普通には長句のものを陀羅尼、数句からなる短いものを真言(しんごん)、一字二字などのものを種子(しゅじ)という場合が多い。『大智度論(だいちどろん)』巻五には、聞持(もんじ)陀羅尼(耳に聞いたことすべてを忘れない)・分別知(ふんべつち)陀羅尼(あらゆるものを正しく分別する)・入音声(にゅうおんじょう)陀羅尼(あらゆる音声によっても左右されることがない)の3種陀羅尼を説き、略説すれば五百陀羅尼門、広説すれば無量の陀羅尼門があるとする。また、『瑜伽師地論(ゆがしじろん)』巻45には、法陀羅尼・義陀羅尼・呪(じゅ)陀羅尼・能得菩薩忍(のうとくぼさつにん)陀羅尼(忍)の4種陀羅尼があげられており、『大乗義章』巻11にはこの四陀羅尼について詳説されている。また、不空(ふくう)訳の『総釈陀羅尼義讃(そうしゃくだらにぎさん)』には4種の持としての陀羅尼が説かれ、法持(ほうじ)・義持(ぎじ)・三摩地持(さんまじじ)・文持(もんじ)の別が説かれている。

 呪を陀羅尼と名づけるところから、呪を集めたものを陀羅尼蔵、明呪蔵(みょうじゅぞう)、秘蔵(ひぞう)などといい、経蔵、律蔵、論蔵、般若(はんにゃ)蔵とともに五蔵の一つとする。諸尊や修法に応じて陀羅尼が誦持(じゅじ)される。密教では、祖師の供養(くよう)や亡者の冥福(めいふく)を祈るために尊勝(そんしょう)陀羅尼を誦持するが、その法会(ほうえ)を陀羅尼会(だらにえ)という。

[小野塚幾澄]

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改訂新版 世界大百科事典 「陀羅尼」の意味・わかりやすい解説

陀羅尼 (だらに)

サンスクリットのダーラニーdhāraṇīの音写で,〈総持〉〈能持〉〈能遮(しや)〉と訳す。総持,能持はいっさいの言語説法を記憶して忘れない意味であり,能遮はすべての雑念をはらって無念無想になることである。陀羅尼を繰り返し繰り返しとなえれば雑念がなくなって禅定に入り,その結果はいっさいの言語説法を記憶することができる。これを聞持(もんじ)陀羅尼ともいうが,そのためには声に出さずにとなえるのがよいので入音声(にゆうおんじよう)陀羅尼ともいう。しかし陀羅尼が普通の言葉ではその意味を分別するので,無念無想になれない。したがって意味不明な呪文(じゆもん)のほうがよいことになる。たとえば大日如来にはアビラウンケンとかアアーアンアクアーンク,オンアラハシャノーなどの真言があり,教理的解釈はあるけれども,実際の意味は不明である。しかし陀羅尼の宗教性はその意味にあるのでなく,これが仏の真実語であると信じ,その神秘的な力に帰依する信仰にある。したがってこれを神呪(じんしゆ)ともいうが,これを信じないものにはまったく無力である。大日真言のアビラウンケンを〈油売ろうか〉と憶えた老婆の加持はよく効いたが,僧からアビラウンケンと正されてから効かなくなったという話が《沙石集》にみえる。陀羅尼は仏教経典に多くふくまれ,旧訳経典では呪と訳している。密教経典はこの陀羅尼から成っているので一般人にわかりにくいため,秘密教とよばれる。インドにおいてすでにそうだったから,そのインドの発音を漢字で音写して日本に伝わった密教経典が,日本人にわかりにくいのは当然である。日本で密教を真言宗といったのは,陀羅尼をマントラ(真言,密言,密呪)ともいうので,陀羅尼宗を真言宗と名づけたものである。それほどに密教の要素として陀羅尼は本質的なものなので,陀羅尼こそ仏の真言語とする思想が生まれ,仏の真の説法は陀羅尼で説かれたと考えられるようになった。しかしこれは秘密語の呪文であるから,意味不明なのが当然なのである。
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山川 世界史小辞典 改訂新版 「陀羅尼」の解説

陀羅尼(だらに)
dhāraṇī

サンスクリット語ダーラニーの音写語で,総持(そうじ)とか能持(のうじ)と漢訳される。心に忘れず保持し記憶し,善法を維持する能力という語義から発展し,病を治したり,悪を遮断し,罪を滅し,善を護り,悟りを促す神秘的な力を持つ梵語呪文(ぼんごじゅもん)を意味する。中国でもあえて翻訳せずに原語の音のまま唱えた。短文のものを「真言(マントラ)」と呼んで区別することもある。早くは『法華経』(ほけきょう)陀羅尼品(だらにほん)などにみられ,後代の密教において特に重要視されて多用されるに至る。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「陀羅尼」の解説

陀羅尼
だらに

サンスクリットのダーラニの音訳。総持(そうじ)と漢訳する。仏教で用いる呪文の一種で,本来はみずからの修行のためのものだが,他者のための加持祈祷の際にもよく用いる。本来は視・聴・嗅・味・触の五感を整え,精神統一して法を心にとどめて忘れないこと,すぐれた記憶力という意味をもつ。同じ呪文の真言(しんごん)や明呪(みょうじゅ)にくらべて比較的長く,「ノウマクサマンダボダナウ」に始まり,諸々の仏神を連ねて祈願をし,「ソワカ」で結ぶ形式をとることが多い。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「陀羅尼」の意味・わかりやすい解説

陀羅尼
だらに

サンスクリット語 dhāraṇīの音写。総持と漢訳されたように,本来は保持するという意味。原始仏教教団では,呪術は禁じられていたが,大乗仏教では経典のなかにも取入れられた。『孔雀明王経』『護諸童子陀羅尼経』などは呪文だけによる経典である。これらの呪文は真言 mantraといわれ,真言としての陀羅尼は密教で特に重要視され,陀羅尼といえば呪文を意味するようになった。

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世界大百科事典(旧版)内の陀羅尼の言及

【密教】より

… 歴史的には雑密(ぞうみつ),純密,タントラ仏教という過程をとって展開する。第1の雑密とは,世界の女性原理的霊力をそれと同置された呪文,術語でいう真言(しんごん)(マントラ),明呪(みようじゆ)(ビディヤーvidyā),陀羅尼(だらに)(ダーラニー)等の誦持によってコントロールし,各種の目的(治痛,息災,財福の獲得など)を達しようとするものである。純密とは《大日経(だいにちきよう)》と《金剛頂経(こんごうちようきよう)》のいわゆる両部大経を指すが,前者は大乗仏教,ことに《華厳経》が説くところの世界観,すなわち,世界を宇宙的な仏ビルシャナ(毘盧遮那仏)の内実とみる,あるいは普賢(ふげん)の衆生利益の行のマンダラ(余すところなき総体の意)とみる世界観を図絵マンダラとして表現し,儀礼的にその世界に参入しようとするもので,高踏的な大乗仏教をシンボリズムによって巧妙に補完したものとなっている。…

※「陀羅尼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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