経典に説かれた仏,菩薩,諸天(神)などの造像,供養,念誦(ねんじゆ)などの儀式の執行規則のこと。その規則を定めた書もまた儀軌といわれる。サンスクリットの〈カルパkalpa〉または〈ビディvidhi〉の訳。儀軌の歴史は古く,ベーダやブラーフマナの時代にまでさかのぼる。そこでは,祭式の執行規則を定めた書は《カルパ・スートラ》と呼ばれていた。それが密教にも取り入れられ,密教儀礼の発達とともにその執行規則としての儀軌もさかんに作られた。現存するのは,インドで作られそれが漢訳されたものであるが,なかには中国で撰述されたものもあり,またサンスクリットの原典もいくつか知られている。密教は一般に口伝を重んずるために儀軌も公開されず,散逸したものも少なくない。その刊行はようやく江戸時代の中期になってから行われるようになった。そのうち,空海の《請来目録(しようらいもくろく)》に記されたものを〈録内儀軌〉,それ以外を〈録外儀軌〉と称するが,その大部分は《大正新脩大蔵経》に収められている。
執筆者:岩松 浅夫
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法則、規則の意。サンスクリット語のカルパkalpa、ビディvidhi、タントラtantraの訳。秘密儀軌ともいう。古代インドの諸神礼拝(らいはい)の規定、儀式の執行規定を称したが、さらには密教の儀礼の発達につれて諸尊の造像、供養(くよう)、呪文(じゅもん)の読誦(どくじゅ)などの修法(しゅほう)次第を記したものを儀軌という。一般に、教理の記述である経典(スートラsūtra)に対して儀軌と称するが、密教では両者の区別は明確ではない。密教の修法次第によって、諸尊の内証本誓(ないしょうほんぜい)(心のうちの悟りや本来の誓願)が異なるため、儀軌の種類が多く、相違点もある。現存の儀軌にはインド撰述(せんじゅつ)のものと中国撰述のものとがある。また、別に密教の経典と儀軌の理解や修法上の便宜のため弟子に伝授する師の口伝(くでん)が、次第、法などと名づけられて数多く編集された。それらは聖教(しょうぎょう)とよばれる。
[小野塚幾澄]
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…このような資料の典型例として,洋の東西に古くから存する図像手引書がある。仏教美術における〈儀軌〉,ビザンティン美術における〈図像釈義Hermēneia〉,ルネサンスからバロックにかけて各種編纂された〈エンブレマータEmblemata(標章学書)〉等がそれである。また,本来図像手引書として編まれたものではないが,かなりの確実性をもって図像とその内容の一対一対応を示唆する文書がある。…
…密教の展開に伴って尊像の種類が急激に増加し,旧来の釈迦像や仏伝図浮彫に加えて,多面多臂の複雑な像容をとるものや,女性の尊像も出現した。密教経典に説かれる諸尊を供養する方式規則を儀軌と呼び,この儀軌において多種多様な像容が細かく規定され,造像法も定型化した。この時代の彫刻はグプタ様式,とくにサールナート派のそれを継承し,優美にして繊細な作品も生んだが,かつての仏像がもっていた深い精神性はもはやここには見いだせない。…
※「儀軌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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