儀軌(読み)ギキ

デジタル大辞泉 「儀軌」の意味・読み・例文・類語

ぎ‐き【儀軌】

密教で、仏・菩薩ぼさつ・諸天などを念誦ねんじゅ・供養する方法や規則。また、それらを記した典籍。
規則。法則。儀範。
「仏々祖々の法は、かならずその始めに、帰依三宝の―あるなり」〈正法眼蔵・帰依仏法僧宝〉

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精選版 日本国語大辞典 「儀軌」の意味・読み・例文・類語

ぎ‐き【儀軌】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( [梵語] kalpa意訳。規則の義 ) 仏語。密教の経典に説かれた仏菩薩、天部の供養および念誦などの儀式規則。転じて、これらを記した経典。(十二天供儀軌のように)この名を付した経典。秘密儀軌。密軌。
    1. [初出の実例]「応十八道一尊儀軌及守護国界主陁羅尼経一部十巻」(出典:類聚三代格‐二・承和二年(835)正月二三日)
  3. 規則、儀範、儀法などの意。
    1. [初出の実例]「仏々祖々の法は、かならずそのはじめに、帰依三宝の儀軌あるなり」(出典:正法眼蔵(1231‐53)帰依三宝)

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改訂新版 世界大百科事典 「儀軌」の意味・わかりやすい解説

儀軌 (ぎき)

経典に説かれた仏,菩薩,諸天(神)などの造像,供養,念誦(ねんじゆ)などの儀式の執行規則のこと。その規則を定めた書もまた儀軌といわれる。サンスクリットの〈カルパkalpa〉または〈ビディvidhi〉の訳。儀軌の歴史は古く,ベーダやブラーフマナの時代にまでさかのぼる。そこでは,祭式の執行規則を定めた書は《カルパ・スートラ》と呼ばれていた。それが密教にも取り入れられ,密教儀礼の発達とともにその執行規則としての儀軌もさかんに作られた。現存するのは,インドで作られそれが漢訳されたものであるが,なかには中国で撰述されたものもあり,またサンスクリットの原典もいくつか知られている。密教は一般に口伝を重んずるために儀軌も公開されず,散逸したものも少なくない。その刊行はようやく江戸時代の中期になってから行われるようになった。そのうち,空海の《請来目録(しようらいもくろく)》に記されたものを〈録内儀軌〉,それ以外を〈録外儀軌〉と称するが,その大部分は《大正新脩大蔵経》に収められている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「儀軌」の意味・わかりやすい解説

儀軌
ぎき

法則、規則の意。サンスクリット語のカルパkalpa、ビディvidhi、タントラtantraの訳。秘密儀軌ともいう。古代インドの諸神礼拝(らいはい)の規定、儀式の執行規定を称したが、さらには密教の儀礼の発達につれて諸尊の造像、供養(くよう)、呪文(じゅもん)の読誦(どくじゅ)などの修法(しゅほう)次第を記したものを儀軌という。一般に、教理の記述である経典(スートラsūtra)に対して儀軌と称するが、密教では両者の区別は明確ではない。密教の修法次第によって、諸尊の内証本誓(ないしょうほんぜい)(心のうちの悟りや本来の誓願)が異なるため、儀軌の種類が多く、相違点もある。現存の儀軌にはインド撰述(せんじゅつ)のものと中国撰述のものとがある。また、別に密教の経典と儀軌の理解や修法上の便宜のため弟子に伝授する師の口伝(くでん)が、次第、法などと名づけられて数多く編集された。それらは聖教(しょうぎょう)とよばれる。

[小野塚幾澄]

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百科事典マイペディア 「儀軌」の意味・わかりやすい解説

儀軌【ぎき】

朝鮮王朝の歴代王室の儀礼や国家と王室の主要行事の記録。当該行事の準備過程から人員,費用,用具資材まで,詳細な図解とともに記録されている貴重な資料で,世界記憶遺産に登録された。《儀軌》は,王室〈御覧用〉のもの以外にも複数制作されたが,王室のものは1866年にフランス軍によって略奪され国内にはほとんど残存しておらず,フランスのビブリオテーク・ナショナル(フランス国立図書館)に集蔵されている。また他に制作されたものの一部は,日本の宮内庁書陵部にあり,韓国では,ソウル大学奎章閣,韓国学中央研究院蔵書閣に集蔵されている。韓国政府は,フランスと日本に返還を要求している。

儀軌【ぎき】

秘密儀軌,供養法とも。密教で諸仏,諸菩薩,諸尊の造像,念誦(ねんじゅ),供養等に関するすべての方法,規則,またはそれを記した典籍。密教では師授を重んずるから公開されないものが多かったが,明治以後の大蔵経などには多数の儀軌が収められるようになった。

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普及版 字通 「儀軌」の読み・字形・画数・意味

【儀軌】ぎき

手本。〔三国志、蜀、諸亮伝評〕亮の相國爲(た)るや、百姓を撫し、儀軌を示す。

字通「儀」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「儀軌」の意味・わかりやすい解説

儀軌
ぎき
vidhi; kalpa

仏教やバラモン教などにおける,仏陀,菩薩,あるいは神々を対象に行う儀式や祭祀の規定。ベーダ時代のバラモン教的祭式は,いわゆる『祭事経』 Kalpa-sūtra中に要約され,簡潔に記されているが,仏教,特に密教においては,仏陀,菩薩などを対象にした供養などに関する規定を重要視し,これを儀軌と称する。また,これを記した文献をもいう。日本における文献としては江戸時代に編纂された『録内儀軌』『録外儀軌』が有名。これらの儀軌は,一種の秘伝として,師から弟子へと秘密裏に伝授される。修法に必要な尊像はすべて儀軌に準拠して彫刻され,図絵にされた。

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世界大百科事典(旧版)内の儀軌の言及

【図像】より

…このような資料の典型例として,洋の東西に古くから存する図像手引書がある。仏教美術における〈儀軌〉,ビザンティン美術における〈図像釈義Hermēneia〉,ルネサンスからバロックにかけて各種編纂された〈エンブレマータEmblemata(標章学書)〉等がそれである。また,本来図像手引書として編まれたものではないが,かなりの確実性をもって図像とその内容の一対一対応を示唆する文書がある。…

【パーラ・セーナ朝美術】より

…密教の展開に伴って尊像の種類が急激に増加し,旧来の釈迦像や仏伝図浮彫に加えて,多面多臂の複雑な像容をとるものや,女性の尊像も出現した。密教経典に説かれる諸尊を供養する方式規則を儀軌と呼び,この儀軌において多種多様な像容が細かく規定され,造像法も定型化した。この時代の彫刻はグプタ様式,とくにサールナート派のそれを継承し,優美にして繊細な作品も生んだが,かつての仏像がもっていた深い精神性はもはやここには見いだせない。…

※「儀軌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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