日本大百科全書(ニッポニカ) 「国営貿易」の意味・わかりやすい解説
国営貿易
こくえいぼうえき
state-controlled trade
国家企業(政府が設立し維持している企業、または政府の一機関)あるいは政府の指定した民間企業のみが独占的に行う貿易のこと。国家貿易ともいう。国営貿易は、民間の貿易業者と同じような商業的考慮(商品の価格、品質などの購入や販売の条件に対する考慮)に従って行われる限り、ガット(17条)でも認められている(ガットは、1995年世界貿易機関=WTOに引き継がれた)。自由主義国の貿易は私的企業による民間貿易が主流であるため、国営貿易の対象となる品目は少なく、主食類、たばこ、アルコール飲料、原油などである。社会主義国では全品目が国営貿易である。一般に国営貿易というとき社会主義国の貿易を意味することが多いのはこのためである。社会主義国では計画経済を遂行していくために、国家による独占的な貿易、つまり完全な国営貿易を実施している。その典型的なものとしてソ連の貿易があげられる。当時のソ連では貿易活動を指導する最高機関として外国貿易省が設けられており、これが諸外国との通商関係(通商条約や協定の締結)の拡大、輸出入計画の作成および関連機関(税関などの諸機関)の指導をしていた。さらにこの管轄下には実際に輸出入業務を担当する貿易公団があった。貿易公団は法人格を有する国営機関であり、独立採算制に基づいて貿易業務を行っていた。
[田中喜助]
『平竹伝三著『ソ連貿易の機構と運営』(1960・早稲田大学出版部)』▽『鈴木重靖著『現代社会主義貿易論』(1981・有斐閣)』▽『鈴木輝二著『東西経済協力と法』(1987・三省堂)』▽『吉岡裕編・監訳、須長昭治訳『SR(シアトル・ラウンド)交渉と国家貿易』(1999・農林統計協会)』▽『唐沢敬編著『越境する資源環境問題』(2002・日本経済評論社)』