改訂新版 世界大百科事典 「国旗差別」の意味・わかりやすい解説
国旗差別 (こっきさべつ)
flag discrimination
船舶の国籍によって貨物の積取り,港湾サービスの提供,課税および諸料金等の面で差別をすることをいう。海運における極端なナショナリズムの典型として現れる国旗差別政策は,重商主義の時代を貫き19世紀前半までの欧米海運を支配した。しかし以後の国際海運市場では,〈自由競争のしくみが各時点における輸送力を最も能率的かつ経済的な方法で荷主の利用に供することを可能にし,同時に技術革新の導入を促す原動力である〉と考えられ,この海運自由の思想が大部分の海運国の政策に反映されてきた。現代の世界海運で国旗差別措置を採っている国は,〈自国船優先積取規定〉をもつアメリカぐらいのものであった。ところが第2次大戦後政治的独立をかちとった多くの発展途上国が,1950年代の後半から60年代にかけて経済的自立意識を高め,経済開発と国際収支の改善を図る有力な手段として,自国海運業の育成発展をめざした。これら途上国は,海運業を興すために必要な設備資金も,海運経営知識も,船舶運航技術も,国際市場での営業基盤やのれんも,もちあわせていなかった。そこで,設備資金,経営知識および運航技術については先進海運国に援助を求めることによって,また営業基盤やのれんに関しては自国貿易貨物の自国船留保という重商主義的な国旗差別政策を採ることによって,それぞれ解決する道を選んだ。この発展途上国海運の〈自国貨自国船主義〉は,具体的には国内立法によって,あるいは双務協定や多国間協定によって推進された。一部の途上国は,国内法により貿易貨物の一定割合を自国船に留保しているばかりでなく,自国定期航路における一定の積取シェアの要求,国内における外国船社の集貨活動の制限,あるいは港湾における外国船の差別的取扱いなど,各種の差別措置を講じている。このため,これら途上国航路では,外国船の積取シェアが著しく狭められ,この結果一部の伝統海運国の船会社は一部定期航路の経営放棄を余儀なくされている。発展途上国の国旗差別行動は,これまで世界海運において伝統的に維持されてきた〈海運自由の原則〉をまっこうから否定するものであるだけに,先進海運国との間にたえず摩擦を生じ,海運における南北問題の主要な要因になっている。
執筆者:織田 政夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報