地球大気開発計画(読み)ちきゅうたいきかいはつけいかく(その他表記)Global Atmospheric Research Programme

改訂新版 世界大百科事典 「地球大気開発計画」の意味・わかりやすい解説

地球大気開発計画 (ちきゅうたいきかいはつけいかく)
Global Atmospheric Research Programme

通称GARPガープ)。大気の運動に関する基本的な物理過程をより深く理解し,科学的根拠のしっかりした天気予報,特に長期予報の物理学的基礎を発展させることを目的とした国際協力事業である。1961年の国際連合の決議に基づき,世界気象機関WMO)と国際学術連合会議ICSU)が共同で推進してきたが,1980年代に入って世界気候計画WCP)へと発展的に解消した。

 GARPは二つの基本的目的をもっていた。第1目的は,天気変化の基礎を支配している大気運動をよく調べてその性質を明らかにし,1日から数週間にわたる期間の予報精度の改善をめざす。第2目的は,全地球的な大気大循環の統計的性質をよく調べてその決定因子を明らかにし,終局的には気候や気候変動・変化の物理学的基礎をよりよく理解することをめざす。

 第1目的の流れは,大西洋熱帯実験(GATE)と全球天気実験(第1回GARP全球実験,FGGE)を軸として,モンスーン実験MONEX),西アフリカ・モンスーン実験(WAMEX),極実験(POLEX),気団変質実験(AMTEX),アルプス実験(ALPEX)など多くの副計画を実施してきた。主計画である全球天気実験は,中期予報(15日ぐらいまでの天気予報)の可能性探求をめざした研究観測計画で,78年12月1日~79年11月30日が特別観測期間であった。この間に,最盛期には地球をとりまく5個の静止気象衛星,4個の極軌道衛星,多数の定高度面気球,浮遊型ブイ,観測船,航空機,特別高層観測点などが動員され,史上初の高密度の気象観測網が実現し,現在その資料を用いた中期予報などの研究が進行中である。副計画の一つの気団変質実験は,日本が中心となってアメリカ,カナダオーストラリアなどとともに行った東シナ海の大気-海洋相互作用を解明するための研究観測で,74年と75年のそれぞれ2月,南西諸島海域に特別観測領域を設け,小さい低気圧の発生・発達に及ぼす冬季寒気団の変質過程の影響を調べた。モンスーン実験は,東南アジアの冬季モンスーンやインド亜大陸の夏季モンスーンのメカニズムを解明することを目標に全球天気実験と並行して実施され,78年12月~79年1月冬季モンスーン実験,79年5月~8月夏季モンスーン実験が行われた。また,西アフリカ・モンスーン実験も,西部アフリカの夏季モンスーンを全般的に解明することをめざして79年5月~8月に実施された。いちばん最後に実施された副計画はアルプス実験で,ヨーロッパ各国やアメリカなどが81年9月~82年9月の全観測期間中,および82年3月~4月に特別観測を行い,ヨーロッパ・アルプス山系の気象への影響が調べられた。

 第2目的の方は,具体化に入る前に世界気候計画の中の研究計画WCRPとして発展的に解消し,今や新しい,より拡充した国際協力による研究計画として,各種気候関連資料の収集,気候模型の開発,大気と海洋の相互作用の研究などに着手しはじめた。また,長期予報や気候予報などに関する研究集会も開催している。日本でも,学術会議の中に世界気候小委員会が設置され,大学や各研究機関が協力して研究環境を整備すべく努めている。
世界気候計画
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「地球大気開発計画」の意味・わかりやすい解説

地球大気開発計画
ちきゅうたいきかいはつけいかく

地球大気に関する国際的な研究計画。GARP(ガープ)(Global Atmospheric Research Programの略)ともいう。大気大循環の物理過程の理解を深め、大気の数学的・物理的モデルを組織的に改善し、全地球的な気象観測と予報のシステムを経済効果が大きくなるよう設計することを主目的としていた。世界気象機関(WMO)と国際学術連合会議(ICSU。現国際科学会議)との共同研究計画で、この協定は1967年に調印されたが80年に失効し、このあとは世界気候計画(WCP。World Climate Programの略)に引き継がれている。GARPの副計画の一つとしてFGGE(First GARP Global Experimentの略。第一次GARP全地球実験)が1978年12月1日から1年間行われた。この計画にはWMOの観測網である9000以上の陸上観測所と約800の高層観測所、それと9隻の海洋定点観測船および5個の静止気象衛星(日本の「ひまわり」はその一つ)などが参加するという、史上空前の規模であった。

[安田敏明]

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百科事典マイペディア 「地球大気開発計画」の意味・わかりやすい解説

地球大気開発計画【ちきゅうたいきかいはつけいかく】

Global Atmospheric Research Programme,略してGARP(ガープ)とも呼ぶ。地上から高度30kmまでの大気を,国際協力により全地球的規模で総合観測しようとする研究計画。1961年の国連決議にもとづいて世界気象機関と国際学術連合会議が共同で推進してきた。自動気象観測ブイ,水平探測気球,人工衛星などを用い,海上,極地,砂漠をも含む全地球的観測システムを実施。研究項目は熱帯気象,特に積雲対流と大規模運動の相互作用,大気と海洋の相互作用,全地球の大気放射の分布,大気大循環の力学的モデル,観測技術の開発。世界気象監視計画に協力する。この計画は1980年代に入って新しい国際協力事業の世界気候計画(WCP)へと発展的に解消した。
→関連項目無線ロボット観測

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「地球大気開発計画」の意味・わかりやすい解説

地球大気開発計画
ちきゅうたいきかいはつけいかく
Global Atmospheric Research Programme; GARP

1970年代に世界気象機関 WMOと国際学術連合会議 ICSUとで共同企画された国際的研究計画。略称を GARP(ガープ,ガルプ)という。その目的は,天気現象を支配している大気の大規模な運動の仕組みの解明と,それによって数日先の天気予報の精度を向上させること。そして,大気大循環の統計的な特性を決める要素を明らかにし,それによって気候の物理学的基礎の理解を深めることである。最初に実施されたのは 1974年のガルプ大西洋熱帯観測計画で,そのほかに全球天気実験,モンスーン実験,極実験,気団変質実験など多くの実験や観測が,その後の研究や技術開発に広く活用された。

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世界大百科事典(旧版)内の地球大気開発計画の言及

【世界気象監視計画】より

…基本計画は,気象観測,気象通信,気象資料処理の3本の柱から成り立っている。1961年に国際連合は,世界的な天気予報の精度向上のために決議を行い,国際協力による気象事業の改善をめざしてWWW計画を,技術開発と研究の推進をはかって地球大気開発計画(GARP(ガープ))を発足させた。以来,WWW計画は,各国の気象観測網の充実と観測精度の向上,気象資料の的確・迅速な伝送のための世界的な気象通信網の拡充,実況天気図と予想天気図の改善と広範囲の交換といった具体的な事業計画が立てられ,68年以来全球観測組織(GOS),全球通信組織(GTS),全球資料処理組織(GDPS)が設立・実施され,順次拡充されて今日にいたっている。…

※「地球大気開発計画」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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