観測船(読み)かんそくせん(英語表記)research vessels

日本大百科全書(ニッポニカ) 「観測船」の意味・わかりやすい解説

観測船
かんそくせん
research vessels

洋上での気象観測海洋観測に従事するための船舶観測船は海洋観測や洋上での気象観測を行うもっとも基本的で重要な手段で、現在までの人類の海洋に関する知見大部分は、初めて世界周航の海洋観測(1872~1876)を成し遂げたチャレンジャー号(イギリス、2300トン)以来の観測船により取得されたものである。1970年代以降、海洋や洋上の気象の観測に、無人のブイロボット・システムや人工衛星からのリモート・センシング等の新しい手法が続々と導入されてきている。しかし観測船には、洋上を自由に移動し、海水プランクトン、さらには海底堆積(たいせき)物の採集をするとともに、ブイ・システム等の計測装置の設置・回収等ができるなど他の観測手段にはみられない特徴があり、今後も観測船による海洋の調査研究に果たす役割は大きい。

 観測船上で行われる観測項目は、海上の気象、海洋の物理・化学・生物・生化学水産、海底の地殻構造・地質など多岐にわたるが、これらすべての分野をカバーする観測船は少なく、気象の観測をおもに行う気象観測船、海水や海底の観測を行う海洋観測船、水産資源の調査を行う水産調査船など、用途に応じた構造の船舶が運用されている。また船舶の大きさとしては、観測対象海域や観測対象項目に従って、ボート程度のごく小型のものから5000トンクラスのものにまで及ぶ。一般に距岸数百海里までの観測には300~1000トン程度、大洋全域を対象とする場合には1500トン以上の船が多く用いられている。特殊なものとしては、潜水して直接海中・海底の観測や試料の採集を行う潜水観測船が実用に供されている。

 観測船には、通常の船舶に要求される性能に加えて、(1)高い耐候性、極地方での行動を行う場合には耐氷・砕氷能力、(2)長い航続距離、(3)優れた操船性、(4)高性能の測位装置、(5)広い実験室や作業甲板、などが要求される。

 観測船には、これらの要求を満たすために、全地球測位システムGlobal Positioning System(GPS)に代表される各種航海計器、観測点での航位保持、観測用ワイヤーの鉛直降下を確保するための操船推進装置(可変ピッチプロペラ、電気推進装置、船首船尾サイドスラスター)などが、艤装(ぎそう)されている。

 さらに観測船の用途に応じた観測機器が搭載される。代表的なものとして、気象観測船では一般の海上気象観測装置のほかドップラーレーダー、高層気象観測装置、波浪計等が取り付けられる。

 海洋観測船では、海面から深さ数千メートルまでの水温や塩分の観測のためのCTD(電気伝導度水温水深計Conductivity-Temperature-Depth profiler)や、試水やプランクトンの採取装置を降下させるためのワイヤー(直径3~10ミリメートル)を取り付けた巻揚げ機や、航走しながら連続的に海面から数百メートルまでの海流観測を行う表層海流計、海底堆積(たいせき)物や岩石を採取するための大型巻揚げ機をはじめとする各種機材が装備される。

 また海中音響の調査研究を行う船では、自船からの雑音を極力抑えるために、短時間に限り発電機等の作動を停止し、船内動力のすべてをバッテリーから供給する能力を備えることもある。

[長坂昂一・石川孝一]

『中井俊介著『海洋観測物語――その技術と変遷』(1999・成山堂書店)』『柳哲雄著『海洋観測入門』(2002・恒星社厚生閣)』『饒村曜著『台風と闘った観測船』(2002・成山堂書店)』『関根義彦著『海洋物理学概論』4訂版(2003・成山堂書店)』『西村三郎著『チャレンジャー号探検――近代海洋学の幕明け』(中公新書)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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