気温や気圧や風など大気の物理的な状態、また水蒸気や二酸化炭素のような大気の構成物質、地球表面への降水、または日射、さらに雲の状態、雷雨や虹(にじ)などの現象を測定、観察すること。積雪や海面の波などの観測も含める。観測データの処理、分析も広い意味では気象観測である。
[篠原武次・渡邉清光]
紀元前6世紀にギリシアで風向の観察が行われたといわれ、前4世紀にはインドで雨量の観測がなされた。水銀気圧計の発明へと導かれるトリチェリの実験は1643年のことで、19世紀初めには測定器械による気象観測が行われるようになった。1873年には第1回国際気象会議がオーストリアのウィーンで開催され、観測方法統一の問題を取り上げた。この会議は、1951年には、国際連合の機構の一つであるWMO(World Meteorological Organizationの略、世界気象機関)へと発展し、現在WWW(World Weather Watchの略、世界気象監視)とよばれる全地球をカバーする気象観測網の構成と運用を推進している。日本においては、天気予測を目的にした気象の観察はかなり昔からなされていたが、日本人による気圧や気温のもっとも古い観測記録は1827年(文政10)につくられた。気象庁の前身である東京気象台が観測を開始したのは1875年(明治8)である。現在、気象衛星をはじめとし、気象観測は著しく多様化し、テレメータ方式の測定とデータのコンピュータ処理が普及しつつある。
[篠原武次・渡邉清光]
目的、手段、観測要素などに目をつけて気象観測を分類することができる。次に述べる観測のほか、特殊な測定器械を用いる観測としては気球観測、気象衛星(「ひまわり」など)、気象レーダー、レーザー・レーダー、ロケット気象観測などがある。
(1)地上気象観測 気象台や測候所で古くから行われている。天気図をつくるための即時通報と、観測データを集計して気候を調べるなど、多方面への利用が目的である。アマチュアの気象観測も、たいていこれに属する。気圧、気温、湿度、降水量、風、日照時間などは測器を用いて測るが、雲や天気などは目視で観測する。以上のほかに、気象庁は日本全土に1300余りのテレメータの観測点をもっている。地域気象観測あるいはAMeDAS(アメダス)とよばれる。観測要素は風向、風速、気温、日照時間、降水量、積雪深で、毎時間のデータが電話線で東京にあるセンターのコンピュータに集信され、利用者に配信される。また利用者が、いつでも、必要に応じてテレメータを呼び出し、データを得ることができる。このシステムのおもな目的は、集中豪雨など比較的狭い地域に現れる激しい気象現象を、即座に把握することにある。
(2)目視観測 気象現象を目で見たり耳で聞いたりした結果を記録にとどめる観測をいう。観測者が常時自然現象に接して理解を深めるうえでも重視される。正確で客観的な観測成果を期するため、現象の定義や用語などを統一しておく必要がある。
雲や雨、雪などの分類には、1989年(平成1)に気象庁が発行した『雲の観測』(『地上気象観測法』の別冊)が用いられているが、入門用として2000年3月から日本気象協会編集の『くものてびき』も使用されている。雲の形、広がり、明るさ、色などは、雲粒の大きさや数、水滴か氷晶か、気流の状態などによってさまざまであるが、まず雲形の特徴をつかんで巻雲、積雲、層雲など10類に分け、さらに細部の特徴は塔状雲、レンズ雲といった種によって記述する。また、雲片の配列や透明の度合いにより波状雲、放射状雲、不透明雲などの変種をとる。10類は英字符号でCi(巻雲)、Cu(積雲)、St(層雲)などと記録する。雲の総合的な状態を表すにはCL,CM,CHとよばれる英字符号が用いられる。たとえば、CL=1は晴天時の積雲で垂直にあまり発達していないもの、CM=3は青空がのぞいている単層の高積雲、CH=7は巻層雲がすきまなく空に広がっている状態である。雲量は、雲が空を覆う割合を全天の10分数(0~10)で記録する。雲の高さ、動きなども目視観測することがある。雨、雪、霧などは一括して大気現象とよばれ、大気水象(ハイドロメテオル)、大気塵(じん)象、大気光象、大気電気象に大別する。水象には雨、霧雨、雪、雪あられ、氷あられ、霧雪、雹(ひょう)、霧、もや、地吹雪(じふぶき)など34の現象が入る。塵象は煙霧、黄砂、塵旋風(ちりせんぷう)など10種、光象は暈(かさ)、彩雲、虹など9種、電気象は雷電、電光、雷鳴の3種である。これらの現象を認めたときは、始終の時刻や変化の状況、現象によっては観測点からの方位、距離を記録する。大気現象ではないがオーロラや夜光雲などとくに珍しい現象の観察記録も、学術的に貴重である。雪片の形は国際水文(すいもん)学協会による7分類のほか、孫野長治(まごのちょうじ)(1916―1985)による分類法(1966)がある。積雪の状態は、日本雪氷学会(1967)によれば、まず新雪、しまり雪、ざらめ雪、霜ざらめ雪に分け、さらに細分する。
雲、大気現象の状況などをまとめ、天気として表す方法は古くからいろいろの分類法があるが、国際的に使われているのは100種類の数字符号である。たとえば、絶え間なく降る並雨(なみあめ)は符号63とする。日本国内では、15種に分けた天気とその記号が使われる。これは、1883年(明治16)にドイツ人クニッピングが初めてつくった日本の天気図に使った記号がもとになっている。
視程の目視観測には、あらかじめ目標になる樹木、建物などを決め、その距離を調べておく。暗夜の観測には、集光していない電灯などの距離と明るさを求めておく必要がある。
(3)永年気候観測 気候の変化をつかむため、都市化などの影響が入らないように、環境の変化が少ない地点で均質性のよいデータを求めることが目的である。
(4)山岳気象観測 連続した高層の気象データを得るため、強風、着雪、着氷の対策を施した測器を使用する。とくに冬季など、観測者は孤独な環境に耐えねばならないが、極地での観測と同じように、珍しい気象現象を体験する機会に恵まれる。日本では、富士山頂ほか数か所で通年、日本アルプスなど多くの山頂では夏の登山期に観測を行っている。富士山頂での観測データは1932年(昭和7)夏以来のものが刊行されている。
(5)海上気象観測 海面水温、波浪、海氷など陸上にはない観測要素が付加されるほか、航行中、しかも動揺のある船上であるから、気圧や風、降水量などの測定法にもくふうが必要である。ブイロボットは、海底の錨(いかり)から延びた索につながれた円形のブイに、テレメータ方式の観測装置を取り付け、短波通信などによってデータを基地に送る。
(6)航空気象観測 飛行場での離着陸に利用する観測には定時観測と、気象状態が基準より悪くなったり回復したりするたびに行う特別観測(スペシャル)がある。雲底の高さ(シーリング)、視程、滑走路視距離、風、気圧の観測が重視される。普通の旅客機などは、航路上の気象状態を通報することになっている。また気象偵察機が、洋上の台風の観測などに活躍する。
(7)農業気象観測 農作物に適した気候条件を調べたり、肥培管理や病虫害対策には気温、降水量、日照時間など普通の気象観測で得られたデータがそのまま役にたつ。温室管理、霜害対策などさらにきめ細かい利用には、耕地で観測したり、蒸発量、日射量、地中温度など特別な要素が必要になる。
(8)水文気象観測 水害の防止軽減、また降水を水資源として有効に利用するには、河川流域の雨、雪、蒸発散などの水量を知る必要がある。融雪水量を推定するためには、山地の積雪量を測定する。流域とその近辺に適当な数の観測点を配置し、そのデータから流域での平均値や総量を推定する技術が重視される。
(9)大気汚染モニター気象観測 工場や自動車などから排出される大気汚染物質を、基準値に基づいて規制するため、気象のデータが必要になる。工業地帯や都会、またその周辺には、数キロメートルあるいはさらに小さい間隔で風や気温の測定点を設け、オンラインでデータを集める。汚染が地球全体の空気に及ぼす影響を調べるためには、WMOの決議に基づいてバックグラウンド汚染モニター用の観測点がつくられ、大気の混濁や降水に含まれる物質などを測定している。
(10)高層気象観測 高さ20~30キロメートルまでの気圧、気温、風の観測には、おもにラジオゾンデとレーウィンを用いる。高さ数キロメートルまでの比較的低い観測には低層ゾンデ、係留気球などが用いられる。気象観測用ロケットは、20~60キロメートルくらいの観測に使用される。
[篠原武次・渡邉清光]
ある場所での観測データだけで利用上十分なこともあるが、気象現象は広がりをもっているから、多くの地点の観測が必要になることが多い。観測地点の配置を観測網という。観測の回数や時刻、データ伝送法などを含めていうこともある。観測網はデータの利用目的に従って構成するが、経済上の理由で理想的にいかないこともしばしばある。
都会や農耕地の微細な気象を知るには、数キロメートル、あるいは数百メートル置きの観測点が必要になる。地域気象観測では、豪雨域を捕捉(ほそく)するために平均約17キロメートル間隔で雨量の観測点を設けている。豪雨の監視に気象レーダー観測網を利用するには、山岳の影で電波が到達しない地域を互いにカバーするようにレーダー設置点を選ぶ。全地球表面を含む広い範囲の天気図を描くためには、高気圧や低気圧などをもれなく捕捉する観測網が必要になる。地球上には約4000か所の観測点があるが、陸地に偏在し、船舶やブイロボットの観測を加えても理想には遠い。高層気象は、洋上の航空路に沿っては商業航空機からの通報の利用もあるが、きわめて不十分である。気象衛星による観測は、こういった観測網の空白域を補うためにも、きわめて重要である。
[篠原武次・渡邉清光]
『気象庁編・刊『気象測器取扱指針』(1971)』▽『大田正次・篠原武次著『気象観測技術 実地応用のための』(1985・地人書館)』▽『気象庁編・刊『地上気象観測法』(1988)』▽『気象庁編・刊『地上気象観測法別冊 雲の観測』(1989)』▽『毛利茂男著『新・気象観測の手引』改訂新版(1990・日本気象協会)』▽『饒村曜著『イラストでわかる天気のしくみ――気象現象の基礎知識と観測から天気予報の実際まで』(1998・新星出版社)』▽『高塚てつ彦著『やさしくわかる気象・天気の知識』(1999・西東社)』▽『日本気象協会気象情報部編、湯山生著『くものてびき――十種雲形について』(2000・クライム気象図書出版部)』
大気の状態を示す気象要素の観察や測定を行うこと。すなわち,雲の種類や空の状態などの観察を行ったり,風,気圧,気温,湿度,雨量などの測定を行ったりすることである。このような観測を多くの場所で定められた時刻に同時に行ってその結果を集めると,そのときの大気の状態がわかる。気象観測の対象となる気象現象には,高・低気圧のように数千km以上もある大規模なものから,雷雨のように数十km程度の小規模のものなど,大小さまざまな規模のものがある。大規模な現象は多くの国々にまたがることが多いので,このような現象を正しく観測するために,各国の気象庁で構成されている世界気象機関(WMO)が中心になって,気象観測の方法を国際的に統一している。こうして得られた結果は国際的に交換して,天気予報などの基礎資料として利用されている。このように統一された気象観測は,陸上だけでなく,海上観測や高層観測においても行われている。気象観測を大きく分けると,空気の流れについての測定と,その流れの中に含まれている水分の状態の変化についての観測ということになろう。前者は地表面や上空の風,気圧,気温などの測定である。後者は水分の循環の観測といってよいであろう。海面から蒸発した水蒸気はそれに接している空気に含まれ,その動きにつれて上空に運ばれる。そこで小さな雲粒になり,さらにそれらが多数集合して雨滴となって地上に落下してくる。水蒸気の段階は湿度計で測定される。雲粒は気象衛星によってその広い範囲の分布状況や温度が観測される。空中にある雨滴は気象レーダーによりその分布が観測される。地上に落下してきた雨滴はAMeDAS(アメダス)などの雨量計によって降雨の状況が測定される。このようにして空気の動きとその中の水分の状態の変化とが対応して観測できるようになったので,これらをもとにして天気の変化の機構がしだいに解明されるようになってきた。
執筆者:清水 逸郎
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…とくに気圧の発見は,真空はないという誤謬をくつがえし,その後の科学の発達のきっかけともなった。そして,気象を定量的に観測することが可能になり,17世紀後半になると,各地で定期的に気象観測を行うようになった。また,17世紀にはI.ニュートンなどにより力学の法則が確立し,光学なども発展した。…
…それはクリミア戦争中の1854年のことであった。その1年前,世界の主要海運国の代表の集りが開かれ,船舶航行の安全のため,洋上における組織的な気象観測の実施を求めた。73年世界各国の気象台長が集まって国際気象会議International Meteorological Organization(略称IMO)を組織し,陸上・海上の別なくひろく気象観測を実施し,観測資料の組織的な収集・交換を国際協力によって実施することを決議した。…
※「気象観測」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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