大気大循環(読み)タイキダイジュンカン(英語表記)general circulation of the atmosphere

デジタル大辞泉 「大気大循環」の意味・読み・例文・類語

たいき‐だいじゅんかん〔‐ダイジユンクワン〕【大気大循環】

全地球的な規模の大気の循環。高温の赤道付近と低温の極付近との間に大規模な熱対流が起こり、それに地球の自転が影響するため三つの対流に分かれ、これらが地表付近で風として吹くとき、貿易風偏西風偏東風となる。大気環流

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改訂新版 世界大百科事典 「大気大循環」の意味・わかりやすい解説

大気大循環 (たいきだいじゅんかん)
general circulation of the atmosphere

全球的な規模でくりひろげられる大規模な大気運動のこと。普通は地球上の大気運動を指すが,他の惑星上の大気運動についていうこともある。大気運動は風速の東西成分,南北成分,鉛直成分によって表される。これらの成分はさらに,帯状平均(緯度線に沿ってとられた平均)とそれからのずれに分解できる。ずれの部分によって表される運動は大気じょう乱によるものである。帯状平均の南北成分と鉛直成分の合成によって得られる運動は子午面内の平均的な循環を表し,これを平均子午面循環という。帯状平均された東西成分によって表される運動,すなわち緯度線に沿う平均的な大気の流れを,帯状流という。大気大循環は,帯状流,平均子午面循環,じょう乱に分けて考察するのが普通である。

 大気は気温の鉛直分布の特徴からいくつかの層に分けることができる。地表から約10kmまでは,気温が上層へいくほど低くなっており,この層を対流圏という。対流圏では対流活動が活発で,空気の上下の混合が盛んである。その上約50kmまでは,等温ないしは上層ほど気温の高い層となっており,成層圏といわれている。対流圏と異なり,成層圏では大気が安定で,上下の混合は不活発である。成層圏の上約80kmまでは中間圏で,気温がふたたび上層ほど低くなっている。中間圏の上は熱圏といわれ,気温は上層ほど高くなる。近年,観測網の充実により,対流圏から下部成層圏(約10~約30km)までの大規模な大気運動のようすは明らかになってきたが,それより上層の大気運動については,まだ十分に詳細がわかってはいない。

ここでは,対流圏および下部成層圏に注目して大循環の特徴を述べる。図1は冬季と夏季の帯状平均気温の緯度・高度分布を示す。対流圏は両極へ向かうほど気温は低くなっているが,下部成層圏では,冬半球の高緯度を除けば,対流圏とは反対に赤道から極へ向かうほど気温は高くなっている。図2は冬季と夏季の帯状流の緯度・高度分布を示す。一般に西風が卓越しており,東風が吹いているのは,熱帯の対流圏と成層圏,夏半球の成層圏および高緯度の地表付近である。圏界面付近のジェット気流の強さと位置の季節変化は,北半球では大きいが,南半球では小さい。南半球の季節変化が北半球のそれよりも小さいのは,南半球が北半球に比べ海洋の面積が大きいためといわれている。冬半球の高緯度成層圏に風速の強い流れがみられる。これは極夜ジェット気流の軸(高度60km付近に存在)をとりまく風速の強い領域が下層へ伸びた部分である。図3は冬季と夏季の平均子午面循環を示す。両半球とも,低緯度と高緯度に直接循環,中緯度に間接循環があって,3細胞構造を示している。各細胞循環のうち,南半球の中緯度と高緯度の循環以外のものは,その強さや位置の季節変化が大きい。ここで直接循環とは,相対的に高温域で上昇,低温域で下降する子午面循環のことである。相対的に高温域で下降,低温域で上昇する子午面循環は間接循環といわれる。帯状流や平均子午面循環の日々の状態は,図2,図3で表される基本的な状態のまわりで変動しており,これらにじょう乱が重なって,日々の複雑な大気の流れを形づくっているわけである。

今,大気が等温静止状態にあるとき,突然太陽が輝きはじめたとして,北半球の対流圏に注目し,その大循環が形成される過程を考えてみよう。

 大気は太陽熱による加熱(太陽熱の大部分はいったん地表面に吸収されてから,いろいろな過程を経て大気を加熱する)と長波放射による冷却の結果,低緯度では正味の熱獲得,高緯度では正味の熱損失を受ける。この結果,相対的に低緯度の大気が高温,高緯度の大気が低温になり,低緯度で上昇,高緯度で下降,対流圏の上層で北向き,下層で南向きの1細胞の子午面循環ができる。この子午面循環にコリオリの力が働き,上層で西風,下層で東風が吹くようになる。18世紀前半,ハドリーGeorge Hadley(1685-1744)はこのような子午面循環が存在するとして,大循環の特徴を説明しようとした。もし,地球の自転速度が現在よりも遅いか,あるいは南北の気温差が現在ほど大きくならなければ,この1細胞構造の子午面循環がそのまま持続することが,ディッシュパンを使った室内実験モデルで示されている。大循環がこのように1細胞子午面循環の状態のもとにあることをハドリー体制といい,そのときの大循環をハドリー循環という。しかし,ハドリー体制は,現在の地球上では維持されない。傾圧不安定によって大気じょう乱が発達するまでに南北の気温差が大きくなる。じょう乱が発達すると,運動量や熱がじょう乱によって,図4のように緯度圏を通して南北に輸送される。この結果,運動量についてみるならば,低緯度と高緯度の運動量が中緯度に集められる。しかも,上層でその効果が大きいため,中緯度上層の西風の中にジェット気流が生成する。これにともなって,上層では西風に働く南向きのコリオリの力と北向きの気圧傾度力のバランスがくずれ,中緯度では運動量流入の結果風速が強くなるのでコリオリの力が卓越し,高・低緯度では運動量流出の結果風速が弱くなるので気圧傾度力が卓越する。このため,中緯度では低緯度へ,低緯度では中緯度へ向かう流れが生じ,中緯度と低緯度の境界付近では流入した空気が下降流をつくる。反対に中緯度と高緯度の境界付近では,空気が流出するので上昇流が発生する。かくして,図5のように,平均子午面循環は1細胞から3細胞に変わる。つまり,ジェット気流や3細胞子午面循環の生成には大気じょう乱が重要な役割を果たしているわけである。このように大循環がじょう乱の発達した状態のもとにあることをロスビー体制,そのときの大循環をロスビー循環という。ハドリー体制になるかロスビー体制になるかは,南北気温差と地球の自転速度の組合せできまるが,現在の地球上の大循環はロスビー体制のもとにあるわけである。19世紀中ごろ,フェレルは,ハドリーが提唱した1細胞子午面循環のモデルでは実際の大循環の様相を十分説明できないとして,現在では自明のこととなっている3細胞子午面循環のモデルを提案した。3細胞のうち,低緯度の直接循環はハドリー細胞,中緯度の間接循環はフェレル細胞といわれることもあるが,これはハドリーとフェレルの業績をたたえてつけられた名前である。

 ところで,大気じょう乱ばかりでなく子午面循環も運動量や熱の輸送に関係する。すなわち,直接循環内では運動量は上向きに,熱は北向きに,また間接循環内では運動量は下向きに,熱は南向きに輸送される。このため,3細胞の子午面循環が形成されると,中緯度の間接循環内では運動量が下層へ運ばれるため,中緯度下層の東風は西風に変わる。こうして,対流圏の大部分では西風が卓越し,中緯度上層にはジェット気流があり,大気下層では低緯度と高緯度に東風が存在するという帯状流の特徴が形成される。

 さて,この帯状流は,日々複雑な変動をしているが,平均的にみると上述の特徴は維持されているわけで,次にその維持の機構の概略を考えてみよう。

 対流圏上層では,大気じょう乱によって運動量が中緯度に集められるので,高・低緯度で運動量の不足,中緯度で過剰が生ずる。この過不足は,各緯度帯に存在する直接循環と間接循環による上層と下層間の運動量輸送により相殺される。この結果,対流圏下層では,高・低緯度で運動量の不足,中緯度で過剰が生ずるが,高・低緯度では地表東風のため地表摩擦によって運動量が生成され,中緯度では地表西風のため運動量が消滅する。こうして,図6に示されているように,大気じょう乱と子午面循環による運動量の流れは,どの領域でも流入と流出がバランスしており,帯状流が維持されているのである。

 大気じょう乱の発達には南北の気温差が重要であるが,大気じょう乱と子午面循環は,熱を南北に輸送することによって図7に示されているように,太陽放射と長波放射による大気の低緯度における加熱,高緯度における冷却を相殺して,帯状平均気温場,すなわち南北の気温差を維持する役割も果たしている。以上のように,大循環の生成・維持にじょう乱が重要な役割を果たしていることを明らかにしたのが,近代の大循環論の大きな特徴である。

コンピューターの発達によって,大気の運動方程式の数値解法が可能になり,計算で大気運動を再現する数値シミュレーションができるようになったことは,大循環研究の進展に大きな貢献をした。初期の数値シミュレーションは,冬季の大循環の特徴を再現することであったが,現在では,大循環の季節変動の再現にほぼ成功しており,計算モデルも北半球のみならず南半球や成層圏を含むように拡張された。この間,数値シミュレーションは,条件の与え方によって現実と違った状況下での大気運動の再現もできるため,例えば,山岳を含むモデルと含まないモデルの計算結果を比較して大気運動に及ぼす山岳の効果を明らかにするというような,大気運動の機構解明にも使われた。さらに,古気候を調べるために氷河期の循環を再現したり,成層圏に汚染物質が入ったときの拡散を調べるために成層圏循環を再現し,それによる汚染物質分布の変化を計算するなど,数値シミュレーションの手法は多方面で利用された。ところで,大循環の季節変動には年による違いがあり,これからの大きな問題は,この違いを再現することである。これが可能になると,数値シミュレーションの手法を長期予報や気候予測の問題に応用することができるようになる。このため,計算モデルを大気のみでなく海洋も含むように拡張することや,気候変動に関係があると考えられている因子(例えば,海面水温,太陽定数,雪氷分布,土壌水分,二酸化炭素,雲量等)の変化に対して大気がどのように応答するかを調べる感応度テストなどが行われはじめている。
成層圏循環 →大気擾乱(じょうらん) →大気放射
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大気大循環」の意味・わかりやすい解説

大気大循環
たいきだいじゅんかん
general circulation of the atmosphere

地球上における大気の大規模な循環運動。極と赤道,海洋と大陸の間などで起こる。地球を取り巻く空気(大気)は,太陽から受ける熱エネルギー量の違いから北極や南極地方を冷源,赤道や熱帯を熱源とする三次元構造と,地球の自転によるコリオリの力(北半球では進行方向に右向き,南半球では左向き)によって,赤道付近の熱エネルギーを極地方へ運んでいる。熱循環の基本的な流れには三つある。一つめは,ハドレー循環といわれる低緯度の鉛直子午面循環で,熱帯収束帯と北緯 30°付近の亜熱帯高圧帯の間で熱エネルギーを高緯度に運び,地上付近では亜熱帯高圧帯から赤道方面へ貿易風(北半球では北東風,南半球では南東風)となって吹く。二つめは,中緯度を西から東へ吹き地球を一周している偏西風による熱エネルギーの輸送である。偏西風帯では,南北の温度傾度が強まると流れが南北へ蛇行を始め低気圧が発生し,南北の温度傾度を解消させる熱交換をする。こうして,熱エネルギーは亜熱帯高圧帯方面から亜寒帯低圧帯方面へ運ばれる。三つめは,北緯 60°付近と極方面の極循環で,寒気が極地方から北緯 60°帯の亜寒帯低圧帯に偏東風となって流れ,上空では極向きに戻って熱交換を行なう。

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百科事典マイペディア 「大気大循環」の意味・わかりやすい解説

大気大循環【たいきだいじゅんかん】

大気環流とも。太陽の熱作用,地球の自転の影響などによって大気が全地球的な規模で一定の循環・混合を続けている現象。古典的な循環論は対流説ともいわれ,赤道近くの高温域と極付近の低温域の間に起こる大気の対流を考え,それに地球の自転の影響が及んで偏西風や貿易風などのような東西流ができ,地上の平均的な風系がこれによって維持されると考えた。近年の理論では大循環の構成要素としてジェット気流やその変動,高・低気圧による大気の南北方向の水平混合などが占める役割を重要視し,南北の熱の運搬だけでなく,運動エネルギー,運動量,角運動量,水蒸気の輸送をも重要視する。大気大循環の研究は大気の運動,特に将来の予想に重要で,長期予報にも役立つ。
→関連項目気象衛星ジェット気流中緯度高圧帯偏西風帯

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大気大循環」の意味・わかりやすい解説

大気大循環
たいきだいじゅんかん

大気環流

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世界大百科事典(旧版)内の大気大循環の言及

【惑星】より

…太陽の万有引力に引かれてその周囲を楕円運動する天体群。遊星とも呼ばれる。内側から水星,金星,地球,火星,木星,土星,天王星,海王星,冥王星の9個があり,その多くは衛星をもつ。また火星と木星の間には数多くの小惑星があり,惑星に集積し切れなかったなごりの物体群と考えられている。水星,金星,火星,木星,土星の5惑星は太陽と月を除けば天空で恒常的にもっとも明るい天体であるから,太古より人類の生活に暦,占星術の形で取り込まれてきた。…

※「大気大循環」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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