世界気象機関(WMO)のおもな活動計画の一つで、気候問題に関する国際共同計画。略称WCP。1979年の第8回WMO総会で採択され、次の副計画からなる。
〔1〕世界気候資料・監視計画World Climate Data and Monitoring Programme(WCDMP) (1)測器による観測資料を過去100年以上にわたり収集し、資料の品質の均一性を調査する。(2)観測網の維持改善。(3)データ検索システムの確立。(4)衛星資料応用の気候監視システムの確立。
〔2〕世界気候利用・サービス計画World Climate Applications and Services Programme(WCASP) 社会の損失を軽減するための気候学者と他の分野の技術者との協力、および資料利用に関する開発途上国への技術援助を行う。
〔3〕世界気候影響・対応戦略計画World Climate Impact Assessment and Response Strategies Programme(WCIRP) 気候変動の影響は社会構造、経済組織、開発度などにより異なるため、いくつかの調査を行う。重要な調査項目は、(1)水資源・エネルギー・農業などとの関連。(2)気候変化と人間活動との相互作用。(3)前記(2)の相互作用の、コンピュータによる数値モデル実験など。
〔4〕世界気候研究計画World Climate Research Programme(WCRP) 気候変動の予測のための研究を行う。(1)気候の数値モデルの作成。(2)雲量、放射、エーロゾル(浮遊微粒子、煙霧質。エアロゾルともいう)、海洋(海況)などの分析。
1990年にWMO、国連教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ))の政府間海洋学委員会(IOC)、国際学術連合会議(ICSU。現、国際科学会議)、国連環境計画(UNEP)は、気候について、大気、生物、雪氷、海洋などの気候システムを取り巻くすべての要素の観測・監視、データの蓄積、調査研究を行うため、全球気候観測システムGlobal Climate Observing System(GCOS)を設立したが、WCPはこれを支援している。また、WMOは、1988年11月にUNEPとの共催で、地球温暖化問題を初めて政府レベルで検討する場として「気候変動に関する政府間パネル」Intergovernmental Panel on Climate Change(IPCC)を設立し、科学的な知見、影響評価や適応戦略、経済に及ぼす影響や排出削減コストなどの横断的な経済問題などを集めて評価し、各国政府の政策決定者に科学的知見を基にした助言を行っている。IPCCの報告書は、1990年に第一次報告書が発表され、以後5~6年の間隔でつくられており、1994年に発効した「気候変動に関する国際連合枠組条約」(気候変動枠組み条約)UN Framework Convention on Climate Change(UNFCCC)などに反映されている。
[安田敏明・饒村 曜]
『科学技術庁資源調査所編『地球科学技術――主要国際研究プログラムの現状と展望』(1987・大蔵省印刷局)』▽『気象庁編『異常気象レポート'89 近年における世界の異常気象と気候変動 その実態と見通し』(1989・大蔵省印刷局)』▽『大芝亮監修『21世紀をつくる国際組織事典5 環境にかかわる国際組織』(2003・岩崎書店)』
気候問題に関する国際協力事業。通称WCP。近年,世界各地で頻発している異常天候が,農業生産や人類の生活環境に深刻な影響を及ぼすのではないかと心配されており,また化石燃料等の消費量の増加の結果として増大する二酸化炭素によって,気候が不測の変化をするのではないかと憂慮されはじめた。こうした世界的な気候に対する関心と気候の将来に対する憂慮を反映して,世界気象機関(WMO)は1979年の第8回総会で,〈世界気候計画〉の採択を承認した。この計画は,次の四つの基本的な柱から成り立っている。すなわち,世界気候資料・モニタリング計画(WCDMP),世界気候利用・サービス計画(WCASP),世界気候影響評価・感応戦略計画(WCIARSP),世界気候研究計画(WCRP)。このうち,〈影響評価・感応戦略計画〉は国連環境計画(UNEP)が主体となりWMOが後援する形をとっており,一方,〈研究計画〉は国際学術連合会議(ICSU)とWMOが共同で推進している。発足以来今日まで,世界気候計画はそれぞれの柱ごとに着々と実行計画の策定とその実施をはかってきた。例えば,〈資料・モニタリング計画〉では埋もれたり死滅しかけている気候資料の発掘・保存,世界中に散在する資料の目録づくり,世界的な資料収集・交換のための施策などに着手しはじめている。〈利用・サービス計画〉では一般社会の各層の人々,特に政策決定者に,気候の知識を社会・経済問題に活用する利点を啓蒙することを目標としている。〈影響評価・感応戦略計画〉では自然と人間系(農業,水資源,エネルギー,漁業,輸送,健康など),気候変化・変動と人間の社会・経済活動などの関連を明らかにして,それを政策に反映させていくよう努めている。〈研究計画〉では数週間から数十年までの変動を対象として,気候の予測可能性と気候に及ぼす人間活動の影響を中心テーマにすえた国際的な共同研究計画を推進している。
世界気候計画の国際的な事務局はWMOの中にある。日本では〈研究計画〉に関して学術会議の中に世界気候小委員会が設置され,気象庁でも気候変動対策室を設けるとともに気候問題懇談会を開催して世界気候計画に協力している。
執筆者:新田 尚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
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