地蔵菩薩による救済の諸相を主題とした絵巻。鎌倉時代以降の優れた遺作が多くのこる。六道の衆生を済度する菩薩として,地蔵菩薩は特に中世において民衆の間で広い信仰を集め,その造像も盛んに行われた。そして特定の寺院の地蔵尊の由来を説く縁起や,中国,日本のさまざまな地蔵の霊験談を集めた《地蔵菩薩霊験記》が作られ,絵巻化された。前者の代表例としては鎌倉時代の《矢田地蔵縁起》2巻(京都矢田寺)があげられよう。満米聖人が地獄で生身の地蔵に会い,その姿を彫って矢田寺を開いた由縁と,あやまって母を殺した武者所康成がその死後,日ごろ信仰していた矢田寺の地蔵によって地獄から救い出される霊験譚を内容としている。一方,後者では東京国立博物館本1巻や群馬県妙義神社本1巻が,宋の常謹撰《地蔵菩薩霊験記》から取材した地蔵の霊験を描き,フリア美術館本1巻は日本における地蔵霊験譚を集めている。なかでもフリア美術館本は鎌倉時代中期の優れた作風を示す。
執筆者:田口 栄一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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