日本大百科全書(ニッポニカ) 「地震デリバティブ」の意味・わかりやすい解説
地震デリバティブ
じしんでりばてぃぶ
earthquake derivative
あらかじめ決めた観測地域(地点)で、一定基準以上の震度またはマグニチュードの地震が発生した場合、補償金を受けられる金融派生商品(デリバティブ)。大地震発生時の操業不能、物流停止、風評被害などのリスクに備えることが可能である。建物の損壊など地震と損害の因果関係を証明しないと補償金が出ない保険と違って、基準(トリガー)を満たした地震が発生しさえすれば、損害がなくても一定の補償金が支払われる。また保険のように、損害額を査定によって確定する必要がないため、短期間で補償を受けられる特徴がある。日本では災害対策として企業などが地震保険を活用しているが、地震保険の補償範囲が限定されているうえ補償までに時間がかるため、地震で業績に影響を受けやすい鉄道、電力・ガス会社、観光・レジャー業者、製造業、農業事業者、中小企業、小売業者などの間で、地震デリバティブの利用が広がっている。ただし保険と異なり、実際の損害額と補償金との間に差(ベーシス・リスク)が生じる。
地震デリバティブは保険会社や証券会社などが扱っており、台風・豪雨・豪雪・冷夏などに備える天候デリバティブ(補償基準は気温や降水量など)、噴火に備える噴火デリバティブ(補償基準は噴火警戒レベル)、原油価格の変動に備える原油デリバティブ(補償基準は原油価格)などと並ぶ、保険デリバティブの一種である。利用者は毎年一定額の契約料を支払い、契約期間内に基準を満たした地震が発生すれば、自動的に一定の補償金を受け取る仕組み。契約料は対象地域の地震発生確率などから算出する。地震デリバティブを販売する保険会社や証券会社は、特別目的会社(SPC)を通じてCAT(キャット)債券(catastrophe bond、大災害債券)などを組成し、これを複数の機関投資家に販売し、地震発生によるリスクを分散する。地震発生時に、SPCはCAT債券の販売で集めた資金を、保険会社を通じて利用者へ支払う。地震が発生しなければ機関投資家は一定の利回りを得ることができるが、地震が発生すれば機関投資家の元本は毀損(きそん)する。
[矢野 武 2017年11月17日]