マグニチュード(読み)まぐにちゅーど(英語表記)magnitude

翻訳|magnitude

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マグニチュード」の意味・わかりやすい解説

マグニチュード
まぐにちゅーど
magnitude

地震の大きさ」を表す指標。地震の大きさというものを定義することにより、それぞれの地震を定量的に比較することができる。なお、マグニチュードのことを、日本語では「規模」ということもある。マグニチュードを定義する際には、地震波として放射されたエネルギー量として定義されることが望ましい。しかし、地震波エネルギーそのものが実際に計測できるわけではないので、以下に述べるアメリカの地震学者リヒターCharles Francis Richter(1900―1985)によるマグニチュード算出式の提案以降、伝統的には、地震計で計測された地動の最大振幅をもとにしてマグニチュードは決定される。具体的には、震源から一定の決められた距離に置かれている標準的な地震計に記録された地動の最大振幅の常用対数に比例する量としてマグニチュードは定義される。実際には標準的な地震計が震源から一定の距離の場所に置かれていることはめったにない。しかし、距離とともに地動の最大振幅がどのように減少していくかということ(これを距離減衰とよぶ)は経験的にわかるので、地震計がどのような場所に置かれていてもマグニチュードは算出できる。そのため、マグニチュードの算出式は、地動の最大振幅に関する項と地動の最大振幅の距離減衰に関する項からなる。普通は、多くの観測点で算出されたマグニチュードを観測点全体で平均したものをその地震のマグニチュードとする。以下で述べるように、用いる地震波や地震計の特性の違いにより、マグニチュードにはいくつかの異なる定義がある。

[山下輝夫]

沿革

歴史的には、マグニチュードという概念は、1935年にリヒターにより初めて導入された。彼は、カリフォルニア州で発生する浅い地震の大きさを客観的に定義するため、震央から地表に沿って測った距離(震央距離という)が100キロメートル離れた地点に置かれた当時の標準地震計(ウッド・アンダーソン型地震計)で記録された最大変位振幅をミクロン(μm:マイクロメートル)単位で表し、その常用対数により地震の大きさを定義した。

 このリヒターの定義によるマグニチュードの算出式において用いられている最大変位振幅の距離減衰に関する項は、カリフォルニアの浅い地震にしか適用できないため、ローカル・マグニチュード(ML)とよばれる。その後、世界各地で起きている地震の大きさを適切に決めるため、MLとの整合性を保ちながら、新たなマグニチュードが提案されてきた。

[山下輝夫]

マグニチュードの種類

実体波マグニチュード・表面波マグニチュード・気象庁マグニチュード

国際的によく使われてきたものとして、実体波マグニチュード(mB)と表面波マグニチュード(MS)がある。日本では、地震情報として気象庁からマグニチュードが公表されているが、これは普通、気象庁マグニチュード(MJ)とよばれる。表面波マグニチュードは、周期20秒前後の表面波の最大変位振幅を用いて算出される。しかし、表面波は震源の浅い地震でしか放射されないため、震源の深い地震については、周期1秒前後の実体波P波、S波)の最大変位振幅を用いた実体波マグニチュードが用いられる。気象庁マグニチュードは、周期数秒程度の地震波の最大変位振幅に基づいて決められている。ただし、小さな地震については、最大変位速度振幅を用いている。なお、変位とは地震に伴って地面が動いた距離、変位速度とは地面が動いた速度のことである。

 一般に、大きな地震になるほど、放射される地震波の卓越周期(もっとも大きな振動を引き起こす周期)が長くなる傾向がある。一方、それぞれの地震計は、固有周期(地震計の特性を反映した、その地震計固有の振動周期のこと)をもっているため、その固有周期より長周期の地震動ほど、地震計による地震動の計測が不正確になり、地動の大きさの割にはマグニチュードが十分大きくならないという現象が生じる。これを、一般にマグニチュードの飽和(または、頭打ち)とよぶ。表面波マグニチュードや気象庁マグニチュードでは、おおむね8程度でこのような飽和が起きると考えられている。

[山下輝夫]

モーメントマグニチュード

表面波マグニチュードや気象庁マグニチュードとは対照的に、1977年(昭和52)に地震学者の金森博雄(1936― )により提案されたモーメントマグニチュード(MW)は、震源での破壊の起き方に直接関係した量であり、マグニチュードの飽和の問題は起きない。具体的には、地震モーメントの常用対数に比例するものとして、モーメントマグニチュードは定義される。なお、地震モーメントは、断層付近の剛性率、地震に伴う断層のずれ、および断層の面積の積に比例する量である。モーメントマグニチュードは物理的意味が明確であるという利点があるが、その算出のためには、単に地動の最大振幅を計測するのではなく、震源で破壊がどう起きたかということの情報が必要となる。現在では、モーメントマグニチュードは大きな地震のマグニチュードの決定に、広く用いられている。

[山下輝夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マグニチュード」の意味・わかりやすい解説

マグニチュード
magnitude

地震の大きさを表すスケール。アメリカの地震学者チャールズ・F.リヒターが 1935年に提案した定義がもとになっている。最初の定義はカリフォルニアの地震を対象に特定の地震計で観測された最大振幅の対数を基準にしたスケールであったが,その後同じくアメリカの地震学者ベノ・グーテンベルクとリヒターらにより,1940年代から 1950年代にかけて地震から放射される表面波の振幅をもとにした表面波マグニチュード (Ms) や実体波 (P波とS波) の振幅による実体波マグニチュード (mBあるいは Mb) などが考案され,世界中の地震についてマグニチュードが決められ,マグニチュードの基礎ができた。日本では地震の規模を気象庁が公式に発表し,気象庁マグニチュードと呼ばれている。また世界各地にある地震観測所では,それぞれの観測網に適したマグニチュード推定方法が用いられている。これらのマグニチュードは地震から放射されるさまざまな地震波で決められるため,個々の地震の特性によって,同じ地震に対して異なる値になることは珍しくない。近年モーメントマグニチュード (Mw) という地震断層の規模を反映したマグニチュードが提案され,規模の大きい地震ではモーメントマグニチュードが用いられることが多い。しかし,従来のマグニチュードも簡便性と小さな地震までマグニチュードを決めることができる実際性から,依然重要な指標となっている。マグニチュードは,その定義から1だけ増やせば地震のエネルギーは約 30倍になるという特徴がある。なお,マグニチュードが地震の震源での規模を表す量であるのに対し,震度は地震により引き起こされた地表でのゆれの強さを表す値で,震度は震源から離れるに従い小さくなる。

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