日本大百科全書(ニッポニカ) 「塵塚物語」の意味・わかりやすい解説
塵塚物語
ちりづかものがたり
戦国末期の説話集。六巻。作者は明らかではないが、序の藤原某および巻一の冒頭の「前飛鳥井(あすかい)老翁一日語られていはく」とあるので、藤原氏のある公家(くげ)の手になるものと考えてよい。巻末に「天文(てんぶん)廿一年(1552)十一月」の跋(ばつ)があり、これに永禄(えいろく)12年(1569)の序をつけて上梓(じょうし)したことになっている。内容は『宇治拾遺(うじしゅうい)物語』に似た体裁をとり、主として鎌倉から室町時代に及ぶ故事・見聞・逸話など65編が集録されている。序文によれば、藤原某が勤仕(ごんじ)の暇に、「往昔誉れ高き名君名師の金言妙句」や、下賤(げせん)の者たちのことばでも「世の人の助けとならん事」を集めたとあるが、とくに室町末期の公家・武家の風俗や、動向・信仰に関するものが多く、史料的にも価値がある。
[小澤富夫]
『『塵塚物語』(史籍集覧刊行会編『新訂増補史籍集覧 雑部』所収・1967・臨川書店/日本随筆編集部編『日本随筆全集 17』所収・1930・国民図書)』