日本大百科全書(ニッポニカ) 「夜への長い旅路」の意味・わかりやすい解説
夜への長い旅路
よるへのながいたびじ
Long Day's Journey Into Night
アメリカの劇作家オニールの四幕戯曲。1941年作。1956年初演。「オニールの遺書」ともいわれる自伝色濃厚な作品。ニュー・イングランドの小さな港町の別荘を舞台に、吝嗇(りんしょく)で芸術家としては失敗した俳優の父、麻薬中毒の母、アル中の兄、結核を発病した詩人気質の弟(青年時代の作者)の四人家族が、愛情と憎悪の狭間(はざま)で、互いに傷つけ責め合いつつ理解し許し合うという凄絶(せいぜつ)なありさまが、ある夏の朝から深夜までという古典的時間構成のなかでリアルに描かれる。作者は家庭の恥部を暴露したこの作品を「血と涙がつづった古い悲しみの劇」とよび、死後25年間の上演を禁じたが、夫人の判断で公表された。作者畢生(ひっせい)の名作である。
[一ノ瀬和夫]
『清野暢一郎訳『夜への長い旅路』(1956・白水社)』