日本大百科全書(ニッポニカ)「大乗義章」の解説
大乗義章
だいじょうぎしょう
中国、南北朝から隋(ずい)にかけて活躍した浄影寺慧遠(じょうようじえおん)(523~592)の主著。26巻。この時代には『大乗義』あるいは『大乗義章』と名づけられる書物が輩出したが、慧遠のものは師の法上(ほうじょう)(495―580)が著した同名の書物に直接準拠していると考えられる。そして慧遠の他の多くの著作のなかで本書について言及しているので、早い時期に著されたとみられる。本書は、〔1〕教聚(きょうじゅ)、〔2〕義法(ぎほう)聚、〔3〕染法(ぜんぽう)聚、〔4〕浄法(じょうほう)聚、〔5〕雑法(ぞうぼう)聚の五聚よりなるが、現存本では最後の雑法聚が欠けている。全部で222のテーマ(義)を取り上げているが、慧遠独特の思想は、義法聚のなかの仏性義(ぶっしょうぎ)、二諦(にたい)義、八識(はっしき)義、浄法聚に所収される涅槃(ねはん)義などにみいだされる。その内容は『大乗涅槃経』と『大乗起信論(きしんろん)』が2本の柱となっており、「仏性縁起(ぶっしょうえんぎ)」を主張する。本書は慧遠の没後、弟子たちによって中国の南北にもたらされ、吉蔵(きちぞう)の三論学、智儼(ちごん)の華厳(けごん)学、基(き)(窺基(きき))の唯識(ゆいしき)学などに大きな影響を与えた。
[吉津宜英]