知恵蔵 「大韓民国大統領選挙」の解説
大韓民国大統領選挙(2017)
大統領選挙の当選者は通常、約2カ月間の政権移行期間があるが、今回は、朴前大統領の罷免後、大統領不在の状態が続いていたため、文は、中央管理委員会によって選挙結果が確定し、当選者に決定した5月10日、第19代大統領に就任した。任期は5年で、再選はできない。韓国では08年以降、第17代の李明博(イ・ミョンバク)、第18代の朴政権と保守政権が続いたが、9年ぶりに革新政権に交代した。
韓国の大統領選挙は、直接選挙による多数決制で、1回の投票で得票数が多い候補が当選する。選挙権は19歳以上で、今回の有権者数は、4247万9710人。
朴前大統領の友人で実業家、崔順実(チェ・スンシル)の国政介入事件が発端となった今回の選挙は、朴政権の与党だった保守政党への逆風が強まった。朴政権の与党「セヌリ党」は分裂状態となり、17年2月に党名を自由韓国党に改名した。そして3月末、慶尚南道(キョンサンナムド)の知事を務めていた洪準杓(ホン・ジュンピョ) を党候補に選出した。最大野党の共に民主党は、議員らが朴前大統領の退陣を求める大規模な抗議デモに積極的に参加して国民の支持を集め、4月初めに文を党候補に選んだ。中道系で野党第2党の国民の党も、4月初めに安哲秀(アン・チョルス)前共同代表を党候補に選出、北朝鮮に厳しい姿勢を示して、中道や保守層の支持を得ていった。世論調査機関の調査では、4月15日の候補者登録(告示)前は、トップを独走してきた文に、安が迫り、選挙は事実上の一騎打ちになるという見方が強まっていた。
4月17日に公式な選挙運動が始まると、文は朴前大統領への国民の怒りを追い風に支持を集め、「公共部門での81万人の雇用創出」を公約に掲げて若者票の取り込みを図るなどして、選挙戦を終始優位に進めた。安は告示前のテレビ討論会で他候補に押されて失速した。一方、洪は、北朝鮮の弾道ミサイル発射により安全保障への危機感が高まったのを機に保守票を取り込み、追い上げたが、支持を広げられなかった。
文は5月10日、国会で宣誓し、「保守と進歩の対立は終えなければならない」と、国政介入事件で溝を深めた国民の統合を呼びかけた。また、北朝鮮を念頭に「安全保障の危機を速やかに解決する。必要ならばただちにワシントンに行く。北京や東京、条件が整えば平壌(ピョンヤン)にも行く」と述べた。
地域別の開票結果を見ると、文は釜山(プサン)や蔚山(ウルサン)といった保守の地盤や、国民の党の地盤の全羅道などでも支持を広げ、慶尚南道など南東部の3市道を除く全地域で1位となった。また、韓国のテレビ局3社が行った出口調査によると、文は20歳代から50歳代の全世代で、3~5割の支持を得て1位となった。
(南 文枝 ライター/2017年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報