アメリカの小説家トマス・ウルフの長編小説。1929年刊。初め劇作家志望であったウルフの処女作で、これ以後の小説とともに自伝的大河小説を構成する。作者自身をモデルとする主人公ユージン・ガントが、南部の町アルタモントに生まれてから、州立大学を卒業し、ハーバード大学大学院に入学するところまでを扱った自伝的小説。芸術家肌の石工である父ガントと、実利的な宿屋の経営者である母イライザとの相克、孤独な少年の心を深い愛情で満たす女教師マーガレットとの交流、年上の女性ローラとの初恋と失恋、兄ベンの突然の死など、さまざまなできごとを通して、多感な主人公の青春の哀歓を詩情あふれる文体で描く。のちにケティ・フリングズ脚色の『天使よ故郷を見よ』は、ブロードウェーで評判となり、1958年度演劇部門のピュリッツァー賞を受賞した。
[古平 隆]
『大沢衛訳『天使よ故郷を見よ』(新潮文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ノース・カロライナ州アッシュビルに生まれ,1920年に地元の州立大学を卒業したあとハーバードの大学院に進学,劇作術を学ぶ。28年に長編《天使よ故郷を見よLook Homeward,Angel》を完成するが,翌年に出版されたこの自伝小説は,山国の人々の生態のなまなましい描写と〈山なみのかなた〉に思いをはせる青年ユージーン・ガントのみずみずしい情感のゆえに,一躍ウルフをアメリカ文壇の新星の位置に据える。グッゲンハイム奨学金を得て30年に渡欧,翌年には帰国してブルックリンに住み創作に没頭する。…
※「天使よ故郷を見よ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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