改訂新版 世界大百科事典 「天覧劇」の意味・わかりやすい解説
天覧劇 (てんらんげき)
天皇上覧の演劇。江戸初期にお国歌舞伎を宮中で上演した話や,近代における天覧能などもあるが,史上有名なのは,1887年4月,東京麻布鳥居坂の井上馨邸で催された歌舞伎の天覧である。26日は天皇,27日は皇后,28日は内外高官,29日は皇太后を主賓とし,9世市川団十郎,5世尾上菊五郎,初世市川左団次以下全俳優が,間口7間に小さな花道のある仮設舞台で,《勧進帳》《寺子屋》《忠臣蔵》《夜討曾我》《操三番》《土蜘》《花見踊》などを演じた。これは前年欧化改良政策の一環として政・学・財界人が組織した演劇改良会の企画制作によるもので,条約改正をめざす外交策の一翼でもあった。床の義太夫,大太鼓やツケ打,後見,黒衣などを全廃,台本も添削するなど洋風改良理念の反映が顕著で,鹿鳴館文化の矛盾のあらわれでもあった。が,演劇の社会的・文化的地位の向上を促した意義は大きい。
→演劇改良運動
執筆者:河竹 登志夫
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