知恵蔵 「孤独死保険」の解説
孤独死保険
核家族化及び少子高齢化の進展や、近所づきあいの希薄化などから、独居老人が死亡後、長らく人知れず放置されるという事件が近年問題になっている。内閣府は、高齢社会白書の中で孤独死を「誰にも看取(みと)られることなく亡くなったあとに発見される死」と定義し、一人暮らしの60歳以上の者の半数近くが身近な問題と感じているとしている。また、東京都監察医務院が公表しているデータによると、東京23区内における一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死亡者数は年々増加し、2015年以降3千人を超えた。こうした中には、賃貸住宅の入居者もあり、死後長期にわたって放置された場合には、住居の清掃や遺品整理など原状回復に相当の費用がかかる。借家人には退去の際に原状回復の義務があるが、賃貸借の連帯保証人や相続人が不明の場合や、判明しても相続放棄などによって費用の支払いが行われない場合がある。また、自然死であれば借家人に故意や過失はなく、善管注意義務(善良な管理者の注意義務)にも反してはいない。そのため、いわゆる事故物件(心理的瑕疵(かし)あり)のような扱いとなり新たな借り手が得られなかったとしても、保証人や相続人に逸失利益などの補償を求めることは困難である。孤独死保険は、こうした貸借経営上のリスクを補填、軽減することを目的としている。孤独死などを恐れて、家主が単身高齢者に貸し渋るといったケースに対して、一定の効果が望めるといわれている。ただし、アイアル少額短期保険のアンケート調査によれば、賃貸住宅での死亡事故に遭遇した経験のある家主は27%に上るが、そのうち60歳以上の借家人は13%に過ぎず、60歳未満が80%を占めるという。同社は、「無縁社会のお守り」と題して自殺や孤独死に対する保険を販売しているが、「無縁社会」は必ずしも高齢者に限った問題ではないとしている。
(金谷俊秀 ライター/2019年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報