当事者の一方が相手方に,ある物の使用・収益をさせ,相手方がこれに対して賃料(地代,家賃,借賃)を払うことを約する契約をいう。他人の物を,返還を予定して利用する有償・諾成契約として民法に規定されている(民法601条以下。なお,〈使用貸借〉の項参照)。売買,雇傭などと並んでもっとも日常的な契約である。宅地,農地,建物等の不動産のほか,各種機械器具,自動車,自転車,ふとん,衣装等の動産もその目的物となる。民法は,目的物が,不動産であるか動産であるかにより区別した規定をいくつか設けているが(602条,605条,617条等),大部分の規定は目的物による差異を設けていない。現実には,不動産の賃貸借が,圧倒的に重要な意味をもつ。賃貸借契約は,一時的なものもあるが,多少とも継続的なものが多い。そのため権利・義務関係が複雑になり,紛争も起きやすい。たとえば,期間,契約終了,当事者の交代,賃料とその改定,目的物の修繕等をめぐり争いが生じやすい。民法は,当事者の力が対等であることを前提としてこうした争いについて,各当事者が自己の利益を守るための賃貸借の条件を定めるものとし,補充的な形でいくつかの規定を設けた。しかし,現実には,とりわけ不動産については,契約条件はほとんど賃貸人が決定し,賃借人は賃貸人の提示する条件(期間,賃料など)を受け入れるか否かの自由しかないことが多かった。そのため契約内容は,一般に賃借人にきわめて不利であった。そこで,民法制定(1896)後から,賃借人を保護する内容をもつ特別法がいくつも制定され,裁判所もそうした特別法を基礎にして,賃借人を保護する判決を出してきた。
以下では賃貸借契約について主要な点を民法の規定を中心に概観し,それらがその後の特別法によって,どのように改正されたかにもふれる。
賃貸借の期間について民法は,最長期を20年とし,これより長い期間を定めた場合でも20年に短縮することとした。ただし,契約によって期間を更新することはできる(604条)。最短期間については定めがないから,当事者間で20年以内で,自由に契約期間を定めればよいこととなる。賃貸借には,臨時的・一時的なものもあり,更新することができるから,こうした規定でよいと考えられた。しかし,現実には,長期間にわたる建物所有を目的とする借地契約についても3年とか5年といった短い期間が定められ,期間満了を理由とする明渡請求がでてきたため,借地法で最低20年とする規定が設けられたが,1991年改正により,期間は多様化された。借地契約以外では20年が最長である。ただし借家契約についても最低1年という規定がある(旧借家法3条ノ2,借地借家法29条)。なお借地・借家とも,一時使用の場合についての規定がある(借地借家法25条,40条)。
賃貸人が目的物を譲渡した場合,賃借人が賃借権を新所有者にも主張できるかどうかは対抗力の問題である。民法は,契約は賃貸人と賃借人の間のものであるから目的物が譲渡されれば,賃貸借は終了する(〈売買は賃貸借を破る〉といわれる)とし,継続して賃借するためにはあらためて新所有者との間で契約することを必要としていた。ただ不動産賃貸借にかぎって,賃借権を登記しておけば,目的物の譲受人に対抗できるとしていた(民法605条)。このあと建物保護法および借家法により,一定の条件を備えれば賃貸借契約は新所有者に対抗できることになった。1991年建物保護法,借家法の廃止により,同じ趣向が借地借家法10条,31条に定められた。
賃料は,賃貸借において重要な要素をなすが,民法は支払時期についての規定(民法614条)をおくだけで,額についても,改定についても規定していない。すべて当事者間で定められるべきものとしている。ただ賃料改定については民法制定直後からたびたび問題になり,一定の場合当事者の合意がなくても改定できるとする規定が借地法(12条),借家法(7条)に設けられ,1991年の借地借家法にうけつがれた(11条,32条)。額については,1940年および46年に戦時立法の一つとして地代家賃統制令により統制されたことがあるが,1986年末に廃止された。
賃貸借契約とりわけ借家契約においては,賃貸人は賃借人がだれであるかに重きをおくため,民法は賃借人が賃借権を譲渡したり,賃借物を転貸したりするのには賃貸人の承諾が必要であるとし,もし無断で他人に利用させれば,賃貸人は賃貸借契約を解除できるとした(民法612条)。しかし,とくに借地の場合には,借地上の建物の譲渡とともに借地の権利は当然に移転されるべきものであるうえ,賃借人がだれであるかについての賃貸人の利益はそれほど大きいとはいえない。それにもかかわらず賃貸人は,承諾をしぶったり,高額の承諾料(名義書換料)を要求したりしたため,無断で譲渡されるケースがふえ,解除し明渡しを求める事件が訴訟になった。戦前の判決は解除を比較的簡単に認めていたが,戦後の裁判所は,土地の賃借権が譲渡されても,契約の基礎となる信頼関係が破壊されていないかぎり,契約を解除し明渡しを求めることはできないとした。こうした裁判例をうけて,1966年借地法は,一定の場合には,裁判所の許可があれば,賃貸人の承諾がなくても,賃借権の譲渡・転貸ができるとする規定(9条ノ2)を設け,1991年借地借家法19条にうけつがれた。借地以外では,依然として賃借権の譲渡・転貸には,賃貸人の承諾が必要とされているが,信頼関係の破壊がないかぎり解除できないとする裁判例もある。
賃借物についての修繕は賃貸人がすべきものとされているが(民法606条),当事者間で修繕すべき者を決めたり,範囲をきめたりすることができる。また,賃借物につき必要とされる費用や有益な費用を賃借人が支出した場合,費用の償還を請求できる(608条)。借家人が賃借家屋を増改築することは承諾がないかぎり認められない。借地人は借地上の家屋の増改築はできるが,増改築には賃貸人の承諾を要するという約定条項があると,無断で増改築した場合の契約解除ということもあったが,1966年借地法は,一定の場合,裁判所の許可があれば,増改築ができるとする規定(8条ノ2-2項)を設け,これは借地借家法17条にうけつがれている。
賃貸借契約は,期間の満了,期間の定めのない場合には解約申入れ,また一定の事情のある場合の解除によって終了する。賃借人が,期間満了後もなお賃借を続けたい場合にも,賃貸人が異議を述べれば更新されない。しかし,とくに借地・借家においては契約の更新の保障が必要と考えられ,借地借家法は,更新を拒絶できる場合を限定し,事実上更新を認めるようになった。当事者が期間を定めなかったときは各当事者はいつでも解約申入れができる(民法617条)。借家契約でも期間の定めのない場合があるが,その際の解約申入れはきびしく制約されている。賃貸借契約期間中の解除については,種々の場合がある。賃借人側からの解除は一般に自由とされてきたのに対し,賃貸人からの解除権行使はきびしく制約されている。民法によれば,賃料不払・用方違反その他,賃借人の義務違反を理由とする賃貸人からの解除が認められるが,裁判上は,賃貸借契約の基礎となる信頼関係の破壊されているような場合でないと,解除は認められないとされている。
以上主として不動産賃貸借についてみてきたが,動産についてはあまり争いになることはなかった。ところが,近時リースとかレンタルというかたちで動産の賃貸借が盛んに行われるようになってきている。レンタルといわれるものは,総じて,短期間の契約であることが多く,あまり問題にならないが,リースのほうは,信用供与と結合した複雑な契約であることが多く,種々の問題が生じている。レンタル,リースともに,きわめてバラエティに富み,一般的な議論は難しいが,主として争いになるのは,期間中の目的物の滅失・故障の場合の処理,期間の定まっている場合の中途解約,賃料不払いの場合の処理等である。民法にも他の法律にも規定がなく,貸す側で作成した契約条項によることが多いが,契約条項の内容が,一方的なものであることも多く,借りる側の保護が論じられている。
→借地 →借家
執筆者:山田 卓生
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
甲が乙に対してある物を使用・収益させ、乙がこれに対し賃料を支払うことによって成立する契約。有償・双務・諾成・不要式の契約である。甲を賃貸人、乙を賃借人という。
[淡路剛久]
今日の社会においては、他人の物を利用する関係が頻繁に生ずるが、この他人の物の利用関係のうちもっとも重要なものが賃貸借である。賃貸借は動産についても不動産についても行われる。社会的には不動産の賃貸借が重要であり、とくに宅地・家屋の賃貸借は、日本の住宅事情を反映して、きわめて頻繁に行われている。
[淡路剛久]
賃貸借に関しては民法が必要な定めを置いているが、とくに借地・借家に関しては賃借人の保護が不十分であった。そこで、この領域において賃借人の地位を強化するため、「建物保護ニ関スル法律」(明治42年法律第40号)、借地法(大正10年法律第49号)、借家法(大正10年法律第50号)などが制定され、賃借人の保護が図られてきたが、その後、これらの法律の基本部分を受け継ぎつつ、社会・経済の変化に応じて大幅な修正を加えて、借地借家法(平成3年法律第90号)が制定され、これら3法は廃止された(なお、経過措置として旧法の効力は一定範囲で維持されている)。
[淡路剛久]
賃貸借は契約によって成立するのが原則であるが、借地・借家については契約の締結を強制されることがある(罹災(りさい)都市借地借家臨時処理法など)。
[淡路剛久]
期間の定めのある賃貸借の存続期間は、民法によると最長20年であり、これを超えるものも20年に短縮される(民法604条1項)。しかし、借地借家法は借地につきこれを伸長して30年以上(同法3条)としている。期間の定めのない賃貸借の場合には、民法によると、当事者はいつでも解約の申入れをすることができ、このときから土地については1年、建物については3か月を経過したときに契約が終了する(民法617条1項)。しかし、借地の場合には、借地借家法により、存続期間は30年となる(同法3条)。借家の場合には、存続期間の定めがないが、解約申入れには正当事由が必要であり(借地借家法28条)、解約申入れ後6か月を経過してから契約が終了する(同法27条1項)。なお、1年未満の期間の定めのある賃貸借は、期間の定めのないものとみなされる(借地借家法29条)。賃貸借は上述のほか、特別の事情があると期間の満了前に終了する。たとえば、賃借人が賃料を支払わなかったり、賃貸人の承諾なしに第三者に目的物を使用・収益させるなどして、それが当事者間の信頼関係を破壊するような程度に達すると、賃貸人は契約を解除できるのである。
[淡路剛久]
賃貸借はこれを更新することができるが、民法によるとその期間は20年を超えることができない(民法604条2項)。また、期間満了後に賃借人が賃借物の使用・収益を継続しているのに対して、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないと、前契約と同一条件でさらに賃貸借をなしたものと推定される(民法619条1項)。借地借家法はこれに修正を加えて借地人の保護を図った。すなわち、借地人が契約の更新を請求すると、建物のある場合に限って契約は更新される(期間は、最初の更新については20年、その後の更新は10年。その他の条件は従前の契約と同じ)のである(借地借家法5条1項、4条)。ただし、地主に正当の事由(たとえば、地主のほうが、借地人よりも土地使用の必要性が大きいなど)があり遅滞なく異議を述べたときには更新されない(借地借家法5条1項但書、6条)。また、借地権消滅後に借地人が土地の使用を継続する場合は、地主が遅滞なく異議を述べないと、契約は更新される(借地上に建物があるときには、異議には正当の事由が必要。借地借家法5条2項、6条)。ただし、定期借地については、契約の更新および建物の築造による存続期間の延長はない(借地借家法22条)。借家の場合においても借家人の保護が図られている。すなわち、期間の定めのある場合に、当事者が期間満了前6か月ないし1年内に更新拒絶の通知などを出さないと、契約は更新され(借地借家法26条1項)、家主は正当の事由がなければ、契約の更新を拒み、または解約の申入れをなすことができない(借地借家法28条)。また、通知をしても、期間満了後に借家人が使用を継続するのに対して、家主が遅滞なく異議を述べないと、契約は更新される(借地借家法26条2項)。ただし、定期借家には契約の更新がない(「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」5条による借地借家法38条の改正)。
[淡路剛久]
不動産の賃借権はこれを登記すると、以後その不動産につき物権を取得した者に対抗できる(民法605条)。しかし、賃借権の登記は賃貸人に強制できないので、実際上はあまり行われない。そこで、特別法が制定され、借地上に登記した建物を有すると、借地権を第三者に対抗でき(借地借家法10条1項2項)、借家については、建物の引渡しが対抗要件となっている(借地借家法31条1項)。
[淡路剛久]
賃貸人は目的物を賃借人に引き渡して、使用・収益させる義務、目的物修繕の義務(民法606条)、費用償還義務(同法608条)を負い、賃料請求権を有する。
[淡路剛久]
賃借人は、目的物を使用・収益する権利(賃借権)を有し、目的物保管の義務、賃貸借終了後に目的物を返還する義務、賃料支払義務を負う。
[淡路剛久]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 不動産売買サイト【住友不動産販売】不動産用語辞典について 情報
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