一般的には,何かの事情によって生じている現在の状態を,元の状態に回復することをいう。
(1)民法上は,契約が解除された場合に当事者が負担すべき義務内容をさす(民法545条1項)。契約が解除されると,契約は最初から存在しなかったものとして扱われるので,契約締結後解除までの間に契約内容の全部または一部が履行されていたとしても,それらはいずれも法律上の理由を欠く結果となり,当事者は互いに元の状態に戻すべき義務を負うこととなる。たとえば,売買契約が解除されると,売主が契約に基づいて受領していた売買代金あるいは買主が契約に基づいて受領していた売買目的物は,いずれも保有すべき根拠を失うので,相互にこれらを相手方に返還して,契約が最初からなかった状態を事後的に作り出すことが必要となる。返還すべき金銭には受領のときからの利息をつけることを要し,また返還すべき物が滅失してしまったような場合にはその価格を返還すべきこととなる。
このように原状回復は元来契約解除に固有のものであるが,ときとして賃貸借契約の終了に際しての賃借物の返還に際しても,契約によって賃借人に原状回復義務が定められていることがある。この場合の原状回復は,賃借物に改良を加えたり,通常の使用による損耗(そんもう)以上に賃借物を破損したときに,その部分を除去したり,修理することを意味するものであって,本来の原状回復とは意味を異にする。なお,名誉毀損とされたとき,新聞紙上に謝罪広告を出すのは,一種の原状回復である。また,契約とはまったく関係のない環境保護にも転用され,一定の自然環境の破壊者に対して,環境庁長官が破壊された自然環境を復旧することを命ずる命令も原状回復命令と呼ばれている(自然環境保全法18条)。
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一般には、ある事実が生じなかったならば本来あったであろう法律上または事実上の状態(原状)に戻すことをいうが、民法上は、契約解除または不法行為の場合において、契約または不法行為がなかった元の状態に相手方を回復させることをいう。
契約解除の効果としての原状回復(民法545条)の内容は次のとおりである。物が給付されている場合には、現物を返還しなければならず、金銭が給付されている場合には、受領のときから利息をつけて返還しなければならない。労務ないし物の利用などが給付されている場合には、その給付を受領したときの客観的価格を返還しなければならない。そうして、以上の場合において損害があれば、なお損害賠償を求めうる。
不法行為の効果としての原状回復はドイツ民法やフランス民法では認められているが、日本の民法では金銭賠償の原則がとられており(民法417条・722条1項)、したがって不法行為の効果としての原状回復は認められない、という一般の見解がある。ただし、名誉毀損(きそん)の場合の名誉回復処分(謝罪広告など。同法723条)は一種の原状回復とみることもできる。なお、鉱業法は金銭賠償を原則としつつ、一定の場合には、原状回復を命じることができるとしている(鉱業法111条3項)。
[淡路剛久]
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(2020-9-10)
…これが精神的損害に対する賠償であり,その賠償金はとくに慰謝料と呼ばれている。
[損害賠償の方法]
損害を除去する方法には原状回復と金銭賠償という二通りのものがある。前者は賠償義務者が直接に損害を除去するものであり(たとえば,窓ガラスを賠償義務者自身が修理したり,工事業者に依頼して修理させたりする),後者は賠償義務者が損害を除去するのに必要な費用を負担するものである(たとえば,窓ガラスの修理費用の支出)。…
※「原状回復」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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