原状回復(読み)げんじょうかいふく

日本大百科全書(ニッポニカ)「原状回復」の解説

原状回復
げんじょうかいふく

一般には、ある事実が生じなかったならば本来あったであろう法律上または事実上の状態(原状)に戻すことをいうが、民法上は、契約解除または不法行為の場合において、契約または不法行為がなかった元の状態に相手方を回復させることをいう。

 契約解除の効果としての原状回復(民法545条)の内容は次のとおりである。物が給付されている場合には、現物を返還しなければならず、金銭が給付されている場合には、受領のときから利息をつけて返還しなければならない。労務ないし物の利用などが給付されている場合には、その給付を受領したときの客観的価格を返還しなければならない。そうして、以上の場合において損害があれば、なお損害賠償を求めうる。

 不法行為の効果としての原状回復はドイツ民法やフランス民法では認められているが、日本の民法では金銭賠償の原則がとられており(民法417条・722条1項)、したがって不法行為の効果としての原状回復は認められない、という一般の見解がある。ただし、名誉毀損(きそん)の場合の名誉回復処分(謝罪広告など。同法723条)は一種の原状回復とみることもできる。なお、鉱業法は金銭賠償を原則としつつ、一定の場合には、原状回復を命じることができるとしている(鉱業法111条3項)。

[淡路剛久]

国際法上の原状回復

国際法上の違法行為が行われなかったとすれば存在したであろう状態を回復すること。たとえば、国際法に違反する国内法が制定されたとき、この国内法を廃止すること、理由なく逮捕した外国人を釈放すること、違法に外国から連行した者を帰還させること、不法に没収した外国人財産を返還すること、不法に占領した外国領域から軍隊を撤退せしめることなどは、いずれも原状回復である。原状回復は、国際違法行為に基づく国家責任の解除の基本的形態であり、それが絶対的に不可能であるか、または社会通念からみて犠牲が不均衡に大きい場合を除き、違法行為を行った国は原状回復の義務を負うとされる。

[石本泰雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「原状回復」の解説

原状回復
げんじょうかいふく
restitution

一定の事実によって法律関係が変化した場合にそれを再びもとの状態に戻すことをいう。国際法上,国家責任の解除の最も基本的な方式。国家が国際法上の義務に違反し国家責任が生じた場合,当該国家はその国際違法行為によって侵害された結果をそれ以前の適法な状態に回復する義務を負う。たとえば,国家が外国領域から人身を強制的に連行したり誘拐したとき,あるいは外国資産の没収により他国の法益を侵害したときは,その個人の解放とか財産の返還・再建などの措置をとらなければならない。また国家機関の行為により国家責任が成立したときは,これらの国家行為を改廃するか,その他の是正措置をとることが必要とされる。このような原則は,1928年のホルジョウ工場事件判決などの国際判例を通じて確立された。

原状回復
げんじょうかいふく
restitution

一定の事実によって法律関係が変化した場合にそれを再びもとの状態に戻すことをいう。国内法上,たとえば,売買契約が解除された場合に売主は売買の目的物を取り戻すことができるとか,自己の所有地に他人が無断で家を建てた場合,それを取り壊してもとの状態にすることができるということである。なお,民事訴訟法では旧法で,不変期徒過の場合の救済方法として,また再審申し立ての方法である取り消しの訴えとともに行なうものとして原状回復の訴えが認められていたが,現行法では追完および再審の訴えの問題に吸収された。ただし,破産債権の届け出に対して破産者が行なう異議申し立て期日徒過についての追完は,現在でも原状回復の申し立てとされている。

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知恵蔵mini「原状回復」の解説

原状回復

賃貸物件の契約において、借主物件を退去する際に、借りた時と同じ状態で明け渡すこと。また、そのための工事。貸主が施工業者を指定する慣例によって競争原理が働かず、適正金額よりも高く請求されてトラブルとなるケースもある。住宅の賃貸では国土交通省ガイドラインを規定しているが、事務所や店舗の原状回復についての指針はないのが現状である。2020年に新型コロナウイルス感染が拡大した際にはオフィス縮小や店舗閉鎖が相次いだなかで原状回復費を過剰請求されるケースが多発し、問題となった。

(2020-9-10)

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精選版 日本国語大辞典「原状回復」の解説

げんじょう‐かいふく ゲンジャウクヮイフク【原状回復】

〘名〙 何らかの事情で生じている現在の状態を、元の状態に回復すること。たとえば、いったん締結した売買契約が解除されると、各当事者は互いに契約締結前の状態に回復するため、すでに受け取った代金や品物を相手方に返さなければならない。
※民事訴訟法(明治二三年)(1890)一七四条「天災其他避く可からざる事変の為に不変期間を遵守することを得ざる原告若くは被告には申立に因り原状回復を許す」

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デジタル大辞泉「原状回復」の解説

げんじょう‐かいふく〔ゲンジヤウクワイフク〕【原状回復】

ある事情によってもたらされた現在の状態を、本来の状態に戻すこと。例えば、契約を解除した場合、契約締結以前の状態に回復させること。

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世界大百科事典 第2版「原状回復」の解説

げんじょうかいふく【原状回復】

一般的には,何かの事情によって生じている現在の状態を,元の状態に回復することをいう。(1)民法上は,契約が解除された場合に当事者が負担すべき義務内容をさす(民法545条1項)。契約が解除されると,契約は最初から存在しなかったものとして扱われるので,契約締結後解除までの間に契約内容の全部または一部が履行されていたとしても,それらはいずれも法律上の理由を欠く結果となり,当事者は互いに元の状態に戻すべき義務を負うこととなる。

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世界大百科事典内の原状回復の言及

【損害賠償】より

…これが精神的損害に対する賠償であり,その賠償金はとくに慰謝料と呼ばれている。
[損害賠償の方法]
 損害を除去する方法には原状回復と金銭賠償という二通りのものがある。前者は賠償義務者が直接に損害を除去するものであり(たとえば,窓ガラスを賠償義務者自身が修理したり,工事業者に依頼して修理させたりする),後者は賠償義務者が損害を除去するのに必要な費用を負担するものである(たとえば,窓ガラスの修理費用の支出)。…

※「原状回復」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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