日本大百科全書(ニッポニカ) 「安定貨幣」の意味・わかりやすい解説
安定貨幣
あんていかへい
stable money
この概念は、貨幣(通貨)の望ましい状態をいうもので、金属貨幣とか信用貨幣のような貨幣そのものの定義に関係するものではない。そして、完全な金本位制ではなく、国内で銀行券が主流をなしている管理通貨制度の下で、通貨の対内価値が安定した状態にある貨幣をさす用語である。換言すれば、金融政策の目標を一般物価水準の安定に固定し、それを達成するように通貨供給が管理されている状態の貨幣ともいえよう。安定貨幣の思想は、第一次世界大戦後の1920年代にJ・M・ケインズが『貨幣改革論』A Tract on Monetary Reform(1923)で、またI・フィッシャーが『ドルの安定』Stabilizing the Dollar(1920)のなかで主張しており、管理通貨制度が安定通貨の実現にとり、理想的な制度であることを主張するために登場した用語である。
その後、1930年代の世界的な経済恐慌を経験して、物価の安定よりも完全雇用が求められるようになったため安定通貨の思想も後退した。第二次世界大戦から戦後にかけて国際通貨体制がIMF(国際通貨基金)体制となり、さらに1970年代初頭に固定相場制から変動相場制へ移行するに伴い、貨幣思想も激変したため、今日では、この概念は過去のものになってしまったといえよう。
[石野 典]