日本大百科全書(ニッポニカ) 「専門図書館」の意味・わかりやすい解説
専門図書館
せんもんとしょかん
資料の主題、形態の面で、また図書館の目的、利用者の面で専門的に限定されている図書館。官庁、研究所、企業体の図書館などが含まれる。点字図書館(視覚障害者情報提供施設)、病院図書館、刑務所図書館なども専門図書館であるが、これら特定対象の図書館はかつては「特殊図書館」ともよばれた。
アメリカ合衆国の国立医学図書館、国立農学図書館は国立図書館の役割ももつ。また、アメリカでは研究所図書館とともに、企業体の資料室を多数抱えている。ドイツの専門図書館Spezialbibliothekenは学術図書館Wissenschaftliche Bibliothekenの一つに分類されており、そのうち官庁図書館、教会図書館、博物館図書館、音楽図書館などがもっとも発達し、さらに経済、医学、農学、科学技術の専門中央図書館もある。
日本の場合、アメリカの型に近く、民間企業の資料室が多数あり、専門分野の大規模図書館は日本近代文学館などわずかしかない。中央官庁の図書館は組織的には国立国会図書館の支部図書館(2020年時点で27館)となっている。
[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]
その成立と発展
専門図書館の歴史は比較的新しい。ゼンケンベルクJohann Christian von Senckenberg(1707―1772)が医学研究所を1763年にフランクフルト・アム・マインに寄付してできたゼンケンベルク図書館あたりから始まったといえる。1735年にハンザ都市の商人たちのために設立されたハンブルクの商業図書館は、20世紀初頭には20万冊の蔵書を誇っていた。18世紀末から、ヨーロッパ諸国は国家目的に沿った官庁図書館を次々と設けていった。プロイセンの外務省コレクション(1798年設立)、イギリスはインド局の東洋専門図書館(1801年設立)などが古い例であろう。ビクトリア・アルバート美術館(ロンドン、1837年、工芸・デザイン)、ゲルマニア博物館(1852年、ドイツ文化史関係)その他の図書館が相次いで創設されるのもこの時期以降であった。アメリカでは19世紀末、市の公共図書館内に商業資料コレクションを設置する動きが流行となり、1909年には専門図書館協会が発足している。20世紀に入り、産業活動が活発化し、製品の開発や営業のための情報要求が強まり、イギリスでも専門図書館協議会が1924年に創設された。
[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]
日本
日本では1920年代から専門図書館は少数ながらあったが、大きく発展したのは第二次世界大戦後で、1952年(昭和27)には専門図書館協議会の発足をみた。加盟機関は343(2020年2月時点)である。大学図書館を中心とする医学、薬学、農学、法律、音楽の図書館協会ないし協議会は別にある。専門図書館は情報サービスを主たる目的としている。日本では一般に小規模な資料室が多く、資料を抱えられないわりに利用者からの情報要求の密度は高い。ここでは資料利用のため、また情報収集のため、他館との相互協力が必須(ひっす)であるが、企業体資料室の場合、親組織の機密保持の問題がある。機械化は他種の図書館に比べて進んでおり、「情報センター」を称するところが増えつつある。職員には、図書館の知識だけでなく、専門分野の知識、情報処理の技術が要求される。点字図書館では点字図書や録音図書の作成、病院図書館では読書療法といった特別な技術も必要となろう。
[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]
『河野徳吉著『日本図書館学講座7 専門図書館』(1976・雄山閣出版)』▽『植村達男著『情報氾濫時代を生きる――新しいタイプの専門図書館』(1992・勁草出版サービスセンター)』▽『山崎久道著『専門図書館経営論――情報と企業の視点から』(1999・日外アソシエーツ)』▽『青柳英治・長谷川昭子編著『専門図書館の役割としごと』(2017・勁草書房)』