経済学者、教育者。福沢諭吉に直接指導を受けた小泉信吉(のぶきち)(1849―1894、銀行家。慶応義塾の第2代塾長)の長男として明治21年5月4日東京・三田(みた)に生まれる。普通部から慶応義塾に学び、大学部では福田徳三の指導のもと、学問的感化を強く受け、マルクス主義批判の闘将として育っていった。1910年(明治43)大学部政治科を卒業、母校に残り、1912年(大正1)からヨーロッパに留学、主としてドイツおよびイギリスにおいて理論経済学および社会思想、とくにマルクス主義研究に専心した。1919年に帰国して義塾の教授となり、経済原論、経済学史、社会問題などの講義を担当した。学問的業績としては、まずイギリス古典学派の研究、とくにリカード研究があげられ、リカードの主著『経済学および課税の原理』を完訳(1928年刊)し、さらに『リカアドオ研究』を著している。また、日本における社会思想研究の先駆者として『社会問題研究』(1920)、『近世社会思想史大要』(1926)などを執筆するとともに、マルクス主義に対する容赦ない批判者として、河上肇(はじめ)、櫛田民蔵(くしだたみぞう)らと『資本論』の内容をめぐって活発な論戦を展開し、『価値論と社会主義』(1923)、『マルクス死後五十年』(1933)などを著している。
1933年(昭和8)から1947年まで塾長の職にあり、その間、1943年には学士院会員となった。また、1949年(昭和24)以降東宮教育参与として、皇太子の教育および皇室の近代化に努めた。1959年文化勲章受章。昭和41年5月11日没。
[飯田 鼎]
『『小泉信三全集』26巻・別巻1(1967~1972・文芸春秋)』
経済学者,社会思想家。金融界の要職を歴任し当時慶応義塾塾長だった小泉信吉(のぶきち)の長男として東京三田に生まれた。1910年慶大卒後,直ちに同大予科教授となり,12-16年イギリス,ドイツに留学。帰国後慶大教授となり,経済原論,経済学史,社会問題を講ずる。13年刊の《ジェンス 経済学純理》は,近代経済学中の重要な体系的著作の初の完訳書として著名。20年刊の《社会問題研究》で社会思想家としての名声を確立し,23年刊《価値論と社会主義》等所収のマルクスの価値・価格論をめぐるマルクス経済学者との論争でも著名だが,経済学研究の本領はリカードを中心とする古典派経済学にあり,34年刊の《リカアドオ研究》で経済学博士。33-47年慶応義塾塾長。49年東宮御教育常時参与となり,皇太子明仁(現,天皇)の美智子妃との成婚をはじめ,皇室の近代化に努めた。マルクス主義批判家,経世的・啓蒙的名随筆家等として,日本の戦後思想にも大きな影響を与えた。59年文化勲章受章。《小泉信三全集》(25巻・別巻,1968-70)がある。
執筆者:早坂 忠
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大正・昭和期の経済学者,教育者,評論家,随筆家 慶応義塾大学名誉教授。
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
1888.5.4~1966.5.11
大正・昭和期の経済学者。東京都出身。慶大卒。1916年(大正5)英・独留学から帰国し,慶応義塾大学教授。33年(昭和8)塾長に選ばれ,第2次大戦後の47年まで在任。1945年5月戦災で重傷を負ったが再起。49年から今上天皇の教育に参与し,現皇后の選定にも深くかかわった。59年文化勲章受章,65年東京都名誉都民。「小泉信三全集」全26巻・別巻1。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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…ヒルファディングはエンゲルスの歴史・論理説(論理的なものは歴史的なものから偶然的なものを捨象したものであるという解釈)に依拠して,価値は単純商品(資本主義以前の商品)に妥当する概念であり,生産価格は資本制的商品に妥当する概念であって,両者は質的に異なると反論した。この論争は戦間期の日本でも小泉信三と櫛田民蔵の間で再現され,櫛田は〈価値と生産価格の矛盾は事実の矛盾であって論理の矛盾ではない〉として小泉を反論したが,この反論は歴史・論理説そのものに難点があるために有効であったとはいえない。転化問題の正しい解決の方向に向かって新しい軌道を設定したのは,L.vonボルトキエビチである(1906‐07)。…
※「小泉信三」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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