日本大百科全書(ニッポニカ) 「山路の露」の意味・わかりやすい解説
山路の露
やまじのつゆ
鎌倉初期の擬古物語。作者は『源氏釈』の著者として知られる世尊寺伊行(せそんじこれゆき)とも、その娘の建礼門院右京大夫(けんれいもんいんうきょうのだいぶ)ともいわれる。『源氏物語』の続編の一つ。現存本は一巻であるが、別に『巣守(すもり)』五帖(じょう)、『桜人(さくらびと)』二帖。『嵯峨野(さがの)』三帖をあわせた十帖の総称が「山路の露」だという記録もある(祐倫(ゆうりん)著『光源氏一部歌』)。現存本一巻の内容は、薫(かおる)28歳の秋冬のことで、その間、薫と浮舟(うきふね)の母とは小野に出かけて、浮舟に会うが、浮舟の心は動かない。薫はこのことを中君(なかのきみ)にも秘密にして漏らさない、というのである。事態は、「夢の浮橋」の大尾からまったく進展せず、あの深い余情になおたゆたっている感が深い。文章も拙劣で、『源氏物語』に比すべくもない。
伝本は、近世初期以降の写本数本、版本も数本存在する。両者あわせて一類・二類と分けうるが、版本の大部分を含む一類本のほうが、写本の多くを含む二類本よりも誤脱が少なく理解しやすい本文である。
[今井源衛]
『山岸徳平・今井源衛監修『山路の露・雲隠六帖』(『宮内庁書陵部蔵青表紙本 源氏物語 別巻』1970・新典社)』▽『本位田重美著『源氏物語山路の露』(1970・笠間書院)』