小説家。東京都生まれ。幼少期に川崎市の多摩川沿いに移り住む。東京外国語大学ロシア語学科3年次の1983年(昭和58)、雑誌『海燕』に「優しいサヨクのための嬉遊曲」を発表。感傷を徹底的に排し、パロディー、レトリックといった手法を強く意識して書かれたこの作品は、日本の伝統的な「青春小説」を異化する効果を持ち、「ポスト・モダン」小説として高い評価を受ける。84年、「夢遊王国のための音楽」で野間文芸新人賞受賞。自伝小説やビルドゥングスロマン(教養小説)の形式をパロディー化した長篇小説『天国が降ってくる』(1985)、『僕は模造人間』(1986)で、「青二才」「サイボーグ」などの初期島田作品を通底するテーマを確立し、81年にデビューした高橋源一郎らとともに、日本のポスト・モダン文学の旗手として注目を集める。
88年6月からは自ら「季節亡命」と呼びニューヨークに1年間滞在。滞在中に書き進め、帰国後発表した『夢使い』(1989)では、当時さまざまに変動した国内外の情勢についての考察を作品内に織り込みつつ、「レンタル・チャイルド」といった家族観を問い直すテーマを提起する。『彼岸先生』(1992)で泉鏡花賞受賞。その後の「漱石ブーム」の先駆けとなり、作家後藤明生に「『こゝろ』を『からだ』に翻訳した」と賞されたこの作品は、島田作品には馴染み深いパロディーの手法を構成、語り、物語のいずれのレベルにも駆使しながら、生と死にまつわる宗教観の相対化を積極的に試みた小説として、高い評価を得る。このころから戯曲発表・舞台演出など演劇ジャンルでの活躍も目立つようになり、97年(平成9)には構想に10年を費やしたオペラ『忠臣蔵』を作曲家三枝成彰(1942― )とともに完成させている。
90年代後半には、幼少期よりすごした多摩川沿いのベッドタウンの情景を「郊外」というモチーフで切り取る作品群『忘れられた帝国』(1995)、『子どもを救え!』(1998)を発表。「個人史」「記憶」といった一見ドメスティックなテーマを扱いながらも、特権的な固有性ではなくあくまで普遍性を志向したその視点は、以降の、歴史的政治機構に翻弄される恋愛を描いた『彗星の住人』(2000)や、資本と神の本質的な存在形態を探った歴史小説『フランシスコ・X』(2002)にも引き継がれ、独自の世界観を示している。作品は海外でも多く紹介され、現代日本小説の代表的作家の一人として、ロシア、韓国、インドなどの文学者との交流も深い。
旅行、料理に関する洒脱なエッセイ集も多数発表しているが、同時にパフォーミング・アーツへの関心は、自身による自作の朗読活動や、2名の詩の朗読者が互いにパフォーマンスしあいジャッジを仰ぐ「詩のボクシング」でのタイトル奪取・防衛にも及び、2002年には初の詩集『自由人の祈り』を刊行。ジャンルにとらわれない表現形式に、今後の活躍がもっとも期待されている作家の一人である。
[江南亜美子]
『『子どもを救え!』(1998・文芸春秋)』▽『『彗星の住人』(2000・新潮社)』▽『『フランシスコ・X』(2002・講談社)』▽『『自由人の祈り』(2002・思潮社)』▽『『優しいサヨクのための嬉遊曲』『彼岸先生』『忘れられた帝国』(新潮文庫)』▽『『夢遊王国のための音楽』(福武文庫)』▽『『天国が降ってくる』『夢使い』(講談社文芸文庫)』▽『島田雅彦・星野智幸・大辻都著『茶の間の男』(1996・集英社)』
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