日本大百科全書(ニッポニカ) 「工業所有権保護同盟条約」の意味・わかりやすい解説
工業所有権保護同盟条約
こうぎょうしょゆうけんほごどうめいじょうやく
国内産業の発展のため各国はそれぞれ独自の工業所有権(産業財産権)制度をもっているが、それらの調整を図る必要から締結されたのが「工業所有権の保護に関する1883年3月20日のパリ条約」であり、略して工業所有権保護同盟条約または単にパリ条約とよぶことがある。日本は1899年(明治32)に加盟した。
この条約はその後1900年にブリュッセル(ベルギー)で、11年にワシントンで、34年にロンドンで、58年にリスボン(ポルトガル)で、67年にストックホルム(スウェーデン)で改正され、加盟国は日本を含めて167の国や地域である(2006年現在)。
この条約は、工業所有権の国際的保護のために加入国が同盟を形成し、特許発明、実用新案、意匠、商標、サービスマーク、商号、原産地表示または原産地名称、および不正競争の防止を、その保護の対象としている(第1条)。そのために同盟国民の内外人平等の原則、優先権、周知商標の保護、国際博覧会出品物の仮保護、不正競争防止等に関する規定を設けている。旧ソ連・東欧諸国の発明者証に基づく優先権主張も、ストックホルムにおける改正で可能となった。条約の管理事務はスイスのジュネーブにある世界知的所有権機関(WIPO(ワイポ))が行っている。
条約加盟国のなかには開発途上国も数多くあり、特許発明の強制実施、それに反する場合には特許を取り消すという制度を設けようとする途上国側の強い意見(南北問題)や、ソ連・東欧諸国における発明者証の制度を特許制度と同等に認めるようにという意見(東西問題)が提案され、改正討議がなされてきた。しかし、各国の利害が対立し、条約の改正は困難であり、そのため最近は、パリ条約とは別の国際条約、たとえばヨーロッパ共同体加盟国間の欧州特許条約(EPC)とか、わが国も加盟している特許協力条約(PCT)というような新しい条約がつくられる傾向にある。
パリ条約は、各国の工業所有権制度の相違を是認しつつ、統一可能な範囲で合意事項を定めようとする条約であるが、商標に関しては国際登録制度が「標章の国際登録に関するマドリード協定」に基づいて100年以上の歴史で運営されている。商標登録に関して審査主義(商標登録に際して審査する主義)を採用する国(日本を含む)においては、このマドリード協定に加盟するにはいくつかの問題点があるため、その協定の改正が求められていたが、マドリード協定を改正するのではなく、このような審査主義国等も参加できるようにするためのマドリード協定の議定書が1989年に作成され、1996年4月1日から制度運営がなされている。
日本においては、マドリード協定の議定書の発効を図るための国内法の整備を1999年(平成11)に行い、2000年3月14日からこの議定書が発効した。この結果、わが国においても商標の国際登録制度が開始された。日本で用いられている商標について外国においても保護を求める場合、この国際登録制度によれば、日本の特許庁に出願または登録されている商標と同一の商標を、マドリード協定議定書の締約国のうち、保護を求めようとする国を指定してWIPOに国際登録出願をすることにより、WIPOの国際事務局の登録簿にその標章が登録され、その指定国においての保護が確保される。また、他の締約国から日本を指定国として国際登録出願がなされた場合は、国際登録出願の日に日本に出願された商標登録出願とみなされる。
[瀧野秀雄]
『C・H・C・ボーデンハウゼン著『注解 パリ条約』(1976・AIPPI日本部会)』▽『土井輝生著『知的工業所有権法』(1982・青林書院新社)』▽『中山信弘著『注解特許法 上巻』(1982・青林書院新社)』▽『吉藤幸朔著・熊谷健一補訂『特許法概説』第13版(1998・有斐閣)』▽『後藤晴男著『パリ条約講話』(1999・発明協会)』▽『特許庁編『工業所有権法逐条解説』第15版(1999・発明協会)』▽『橋本良郎著『特許関係条約』(2000・発明協会)』▽『『パテント』2000年2月号Vol.53(弁理士会)』