実用新案法に用いられている考案と同義語で、特許法に用いられている発明に対し、小発明ともよばれている。しかし、一般には発明と考案とを区別することはなく、自然法則を利用した技術的思想の創作は、すべて発明とよばれているのが普通である。
[瀧野秀雄]
1891年のドイツ実用新案保護法にならって1905年(明治38)に制定されたものであるが、これをさかのぼる明治4年4月17日太政官(だじょうかん)布告第175号には「有来リノ器物トイヘトモ別ニ工夫ヲ為シ一層世用ノ便利ヲ為スモノハ年限ヲ以(もっ)テ官許スヘシ」という日本独自の立法もあった。
実用新案法は、物品の形状、構造または組合せに関する考案を保護対象とし、有用な考案を公開する(出願して公にする)代償として、排他的独占権で財産権である実用新案権としての登録を認め、一定期間独占権を付与する制度である。また実用新案権は特許権、意匠権、商標権と並ぶ工業所有権(産業財産権)の一つである。
実用新案法によって保護される物品とは、取引の対象となり、運搬可能なものとされ、方法・用途・素材自体などに関する考案は除かれている。不動産と認められるようなものであっても、搬送可能なもの、たとえばプレハブ住宅などが登録されている例がある。
実用新案制度は、大企業などによって大資本を投下して開発される基本発明などに対し、比較的簡易な改良などにより生じる考案について権利を取得できることから、中小企業などにより盛んに利用され、日本の産業の二重構造性という産業構造になじみ、重要な地位を占めてきた。実用新案登録出願の件数として年間20万件を越える実績で利用されてきたこの制度であったが、中小企業などにおいても技術的に体力がついてくるにしたがってその存在意義が小さくなり、実用新案制度の廃止論も唱えられた。1993年(平成5)に大幅な改正が行われ、この改正された実用新案法は1994年1月に施行されて運用されている。改正の内容はおもに次の4点である。
第一は、実体審査を行わない無審査登録制度の導入である。これまでは出願された考案について、出願審査の請求がされたものについて審査し、新規な考案であるかどうかなどの一定の要件を備えたものについて登録する、という審査登録制度であったが、このような実体的な要件を備えているかどうかなどを審査しないで登録する制度である。
第二は、実用新案権の存続期間をそれまでの10年から6年とする期間短縮である。それまでの実用新案権の存続期間は、出願公告(登録の前に許可の内容を公報に掲載して公告する)の日から10年で終了する(ただし、出願日から15年を越えないこと)とされていたが、これを出願の日から6年で終了することにした。ただし、この存続期間は、2004年の法改正により、出願の日から10年に延長された。
第三は、登録された実用新案については何人(なんぴと)も技術評価の請求を特許庁長官に請求することができる、という制度の導入である。無審査で登録された実用新案が過去の技術文献との関係で有効なものであるかどうかの技術的な評価を特許庁長官に請求することができる、というものである。また、実用新案権の権利行使にあたっては、権利者はこの技術評価書を侵害者などに提示して警告をした後でなければ行使することができない。
第四は、差止請求、損害賠償請求をするにあたって、特許法第103条の過失の推定規定の準用がなくなったことである。特許法第103条には「他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があったものと推定する」と規定されており、侵害行為についての侵害者の過失の有無を立証する挙証責任を権利者から侵害者に転嫁している。これまでは実用新案法においてはこの規定を準用していたが、準用しないこととなったため、原則通り、侵害行為について侵害者に過失があったことを権利者が立証しなければならない。
以上のような大幅な改正からして、これは単なる改正というよりは新しい制度への移行とよぶべきであろう。
なお、改正法下の実用新案の出願件数および登録件数の過去10年の推移は以下のとおりである。
●1999年
出願件数 10,178
登録件数 9,959
●2000年
出願件数 9,550(前年対比: 93.8%)
登録件数 9,038(前年対比: 90.8%)
●2001年
出願件数 8,778(前年対比: 91.9%)
登録件数 8,762(前年対比: 96.9%)
●2002年
出願件数 8,587(前年対比: 97.8%)
登録件数 7,651(前年対比: 87.3%)
●2003年
出願件数 8,155(前年対比: 95.0%)
登録件数 7,669(前年対比:100.2%)
●2004年
出願件数 7,983(前年対比: 97.9%)
登録件数 7,356(前年対比: 95.9%)
●2005年
出願件数 11,386(前年対比:142.6%)
登録件数 10,569(前年対比:143.7%)
●2006年
出願件数 10,965(前年対比: 96.3%)
登録件数 10,591(前年対比:100.2%)
●2007年
出願件数 10,315(前年対比: 94.1%)
登録件数 10,080(前年対比: 95.2%)
●2008年
出願件数 9,452(前年対比: 91.6%)
登録件数 8,917(前年対比: 88.5%)
(注)特許庁ホームページ掲載、2009年6月
[瀧野秀雄]
『豊崎光衛著『工業所有権法』(1980・有斐閣)』▽『吉藤幸朔著・熊谷健一補訂『特許法概説』第13版(1998・有斐閣)』▽『特許庁編『工業所有権法逐条解説』第16版(2001・発明協会)』▽『紋谷暢男著『知的財産権法概論』(2006・有斐閣)』▽『田村善之著『知的財産法』第4版(2006・有斐閣)』▽『渋谷達紀著『知的財産法講義1 特許法・実用新案法・種苗法』第2版(2006・有斐閣)』
物品の形状,構造または組合せにかかわる考案をさし,特許等とともに,工業所有権の一分野をなす。実用新案制度はドイツで発生し,日本では1905年にドイツの法制を範として立法(実用新案法)され,その後何回かの改正を経て,59年に現行法が制定された。この制度は,特許法と意匠法の谷間にある考案,具体的には審美性のない労働用具あるいは実用品に関する低度の発明の救済のために設けられたものであり,特許に比べて利用度は高い。実用新案法は,特許法との競合から,その存在理由につき大いに議論がなされ,1993年の大改正(1994年施行)で,実体的要件につき審査をすることなく登録する制度に改められ,かつ存続期間も短縮された。
日本の現行実用新案制度について述べると,その基本的構造は特許制度に類似しているが,保護の対象において異なっている。両制度とも,自然法則を利用した技術的思想の創作(実用新案法2条1項)を保護するという点では類似している。しかしながら,実用新案制度は,その創作の中で,物品の形状,構造または組合せにかかわる考案のみを保護し,方法については保護されない,という点で特許制度とは異なっている。新規で,かつ他の法定要件を満たす考案を創作した者またはその承継人は実用新案出願をし,登録を受けることができる。それにより,その考案の業としての実施を独占することができ,また実施権を設定することもできる。実用新案権の存続期間は,出願から6年をもって終了することになる(15条)。
執筆者:中山 信弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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