国際連合の専門機関のうちの一つ。略称WIPO((ワイポ)/(ウイポ))。1967年7月14日にストックホルムで署名された〈世界知的所有権機関を設立する条約〉(1970年4月発効)に基づいて設立され,74年に国連の専門機関となった。日本は75年に加盟。加盟国は2005年現在で183ヵ国。
WIPOは,工業所有権保護同盟条約(パリ条約ともいう。ともに略称)に基づく同盟(パリ同盟)およびこの同盟に関連して設立された特別同盟と,〈文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約〉(略称,ベルヌ条約)に基づく同盟(ベルヌ同盟)の合同事務局であった知的所有権保護国際合同事務局(略称BIRPI)の後継機関である。本部はスイスのジュネーブ。
知的所有権の世界的な保護を促進するとともに,各種の国際知的所有権同盟間の管理に関する協力を確保することを目的とする。
BIRPI時代と同様に,パリ同盟およびこの同盟に関連して設立された特別同盟とベルヌ同盟を二つの柱として管理されている。おもな内部機関には,一般総会(WIPOの管理面での意志決定機関),締約国会議(知的所有権の分野における意見交換の場),調整委員会(諸同盟間に利害関係のあるすべての事項についての諮問機関であるとともに,一般総会および締約国会議の執行機関的機能を有する)および国際事務局(すべての同盟の共通の事務局で,首席行政官である事務局長が管理する)などがある。
(1)パリ条約(工業所有権の保護に関するパリ条約) 1883年締結。工業所有権の国際的保護を定めた条約であり,特許,実用新案,意匠,商標および商号の保護ならびに原産地虚偽表示等不正競争行為の禁止のため一定の範囲で国際的統一を行うための国際的取り決めである。おもな内容は,内外人平等の原則,優先権,周知商標の保護,国際博覧会出品物の仮保護等である。この条約が適用される国はパリ同盟を形成する。日本は1899年に加盟している。(2)マドリード協定(〈虚偽の又は誤認を生じさせる原産地表示の防止に関するマドリード協定〉) 1891年締結。この協定が適用される国またはその中にある場所を原産国または原産地として表示している虚偽のまたは誤認を生じさせる表示を有するすべての生産物は,輸入の際差し押さえられ,輸入が禁止されなければならないこと,またはそのような輸入に関しては処置・処罰が課されなければならないことを内容とする。日本は1953年に加入している。(3)マドリード協定(標章の国際登録に関するマドリード協定) 1891年締結。登録商標の保護に関する協定であり,スイスのベルンに中央登録局を置き,ここにおいて国際登録された商標を保護するものである。国際登録を出願するためには,その標章が自国の官庁において登録されることを要件とする。日本は未加盟である。(4)ヘーグ協定(工業意匠の国際供託に関するヘーグ協定)1925年締結。国際事務局に直接なされた国際供託によって,他の同盟国における工業意匠の保護を確保しようとするもの。日本は未加盟である。(5)ニース協定(標章の登録のための商品及びサービスの国際的分類に関するニース協定) 1957年締結。商標およびサービス・マークの登録のための商品およびサービスの分類を規定するものである。日本は90年に加盟した。(6)リスボン協定(原産地名称の保護及びその国際登録のためのリスボン協定) 1958年締結。そこを原産地とする生産物を表示するために役だち,かつ品質および特質が地理的環境に基づくような国・地方・地域の地理的名称を保護する。保護を求める原産地名称は,当事国の官庁の要求に基づき,国際事務局によって登録される。日本は未加盟である。(7)ロカルノ協定(工業意匠の分類を確立するためのロカルノ協定) 1968年締結。工業意匠のための分類制度を設立するための協定である。日本は未加盟である。(8)PCT(特許協力条約) 1970年締結。PCTはPatent Cooperation Treatyの略称。一つの発明について,数ヵ国での保護を求める場合の〈国際出願〉の方式的要件を規定している。PCTは,国際出願,国際調査,国際予備審査をそのおもな内容としている。日本は78年に加盟した。(9)IPC協定(ストラスブール協定) 1971年締結。IPCはInternational Patent Classificationの略称。特許・実用新案について国際分類と呼ばれる共通の分類を採用することによって,文献の検索等を容易にする。日本は1977年に加盟した。(10)TRT(商標登録条約) 1973年締結。TRTはTrademark Resistration Treatyの略称。国際出願が,この条約および規則に定める要件を満たしている場合,国際事務局により国際登録が行われる。国際登録の効果は,国内の標章登録簿に登録されたものと同一である。なお国内官庁がその国の国際登録効果を否認するときは15ヵ月以内に行う。日本は未加盟である。(11)ブダペスト条約(特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約) 1977年締結。一定の要件を満たしている微生物の寄託機関を国際寄託当局として国際的に承認し,いずれか一ヵ所の国際寄託当局で行った微生物の寄託は,すべての締約国の特許手続において有効なものとする。日本は80年に加入。
このほか,〈標章の図形要素の国際分類を設立するためのウィーン協定〉〈タイプフェースの保護及びその国際寄託のためのウィーン協定〉〈科学的発見の国際登録に関するジュネーブ協定〉などがある。
執筆者:三平 圭祐
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世界における知的所有権(知的財産権)の保護の推進を目的として、1967年に設立され、74年に国連の専門機関となった国際組織。略称WIPO(ワイポ)。この機関は、既存の知的財産権保護のための諸条約の実施を確保し、新たな国際条約の締結や条約と国内法との調整を奨励し、また、開発途上国における知的財産権保護制度の整備のために援助を与え、さらに、情報を収集・配布し、加盟国間の国際登録やその他の行政協力のための役務を行う。この機関の国際事務局は、工業所有権保護同盟条約(パリ条約)と著作権に関するベルン条約の合同事務局である知的所有権保護国際合同事務局(BIRPI)を承継したもので、本部はジュネーブにある。
[佐分晴夫]
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(桜井勉 日本産業研究所代表 / 2007年)
(最上敏樹 国際基督教大学教授 / 2007年)
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…また著作権法制の調和には条約の機能も看過できない。 著作権法制に関しては,〈文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約〉〈万国著作権条約〉(著作権の発生に登録等の方式を必要としない無方式主義の国の著作物でも,その複製物に(e)(マルシー)の記号,著作権者名,最初の発行年を表示すれば,方式主義の国でも保護を受けられるとしている),いわゆる〈レコード保護条約〉〈隣接権条約=実演家等保護条約〉〈TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)〉〈WIPO著作権条約〉〈WIPO実演・レコード条約〉などがある(後三者については〈世界知的所有権機関(WIPO)〉の項目参照)。
【日本における著作権法制】
日本で著作権法が制定されたのは1899年のことである。…
…たとえば,コンピューター内またはネットワーク内における著作物の一時的な蓄積は複製の定義に含まれるか,暗号等を応用した複製防止技術を回避する行為を違法とすべきか,電子透かし等を用いた権利管理情報を除去したり書き換える行為はどうか,などである。1996年の世界知的所有権機関(WIPO)著作権条約はこれらの疑問について一応の決着をつけたが,未解決の点も多い。たとえば,ウェブのページにリンクを設定する行為,パソコンのブラウザーが自動的に作成するキャッシュ等は著作権を侵害しないかなどについては,国際的に議論が続いている。…
… なお,WTO(World Trade Organization)協定という世界貿易機関を設立する協定が1995年1月1日発効したが,この協定の付属書の一つのTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定。〈世界知的所有権機関〉の項参照)において,著作権,特許,商標等の知的所有権の国際的保護について規範とともにそれを担保する執行についても規定している。著作権については,コンピューター・プログラム,データベースの保護,貸与権についても規定し,ベルヌ条約,万国著作権条約とともに著作権に関する国際条約として重要である。…
※「世界知的所有権機関」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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