改訂新版 世界大百科事典 「干渉分光法」の意味・わかりやすい解説
干渉分光法 (かんしょうぶんこうほう)
interference spectroscopy
プリズムを分散素子として用いるものを除くすべての分光手法は光の干渉を利用している。例えば回折格子による分光法は多数の細隙(さいげき)による光の回折効果と回折した光の間の干渉を用いており,結果的には回折効果がスペクトルを幾何学的に広範囲に分散させる役割を果たしている。この意味から,干渉分光法とは光の干渉効果のみで分光の原理が説明できる手法であるといってよい。大きく分けて多光束干渉計を用いるものと2光束干渉計を用いるものとがあり,両者とも高い波長分解が得られるうえに光の利用率がよい点で優れる。
多光束干渉型
代表的なものにファブリー=ペロー干渉計を用いるものがある。これは図1のように半透明鏡を0.1~10cmの距離で平行に対向させたエタロンが主役を果たす。図2において面光源の1点P1から出た単色光が入射角θでエタロンに入射し,2面間で多重反射した光とともに透過して相互に干渉する。透過光が強め合う条件は2面間に存在する空間の屈折率を1としたとき,
である。入射角θで入った光すべてを考えると,干渉縞はOを中心とした同心円のリング状となる。干渉には直進通過する光を含み多重反射光のすべてが関与するため(多光束干渉),干渉縞は鋭くなり,分光素子として働く。波長分解能は干渉次数mと関与する光束の数の積で与えられる。dが大きいほど分解は優れるが,スペクトルの次数の重なりが多く,次数分離のための補助分光系が必要である。焦点面上で波長成分を逐次取り出すための波長走査は,エタロンの一つを高精度で平行移動させるか,2面間の物質の屈折率を逐次変える手法をとる。遠赤外やサブミリ波領域では金属メッシュなどでエタロンを構成させることができる。
2光束干渉型
例えばマイケルソン干渉計のような2光束干渉計に単色光を入射させたときに得られる干渉パターンは,2光束間の光の位相差δに対しcos2(δ/2)で表される正弦波状となる。δは光束間の光路差⊿と波長λを用いて2π⊿/λで示されるから,上記正弦波の周波数は光の波長が長いほど低くなる。種々の波長成分からなる光を入れると,それぞれの波長成分に相当する正弦波干渉パターンが加わった独特のパターンが得られるが,その変動部分をインターフェログラムinterferogramと呼ぶ。したがってこれをフーリエ解析すればスペクトルになることがわかる。インターフェログラムを得るには,マイケルソン干渉計の出口側の光軸上で光の強度を観測しながら,干渉計の片方の平面鏡を等速で走査すればよい。得られた出力はコンピューターでフーリエ変換することによってスペクトルとなる。この分光手法はフーリエ変換分光法Fourier transform spectroscopyと呼ばれ,原理は古くからあったが,コンピューターの普及により実用化されたものである。信号利用効率や光学系の明るさの点で通常の分光法にくらべ格段に優れ,高分解分光が高い波長精度で達成できる。近年コンピューターを組みこんだものが普及しているが,とくに赤外領域の分光に向いていることからフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)ということばが定着している。
→干渉計 →分光器
執筆者:南 茂夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報