平均場近似（読み）へいきんばきんじ（英語表記）mean field approximation

改訂新版　世界大百科事典

平均場近似 (へいきんばきんじ)
mean field approximation

相互作用している粒子の集団を考えよう。一つの粒子には周囲の粒子から時々刻々いろいろな力が働いているが，その力のポテンシャルを平均してしまって，着目している粒子が他の粒子からは独立して，この平均されたポテンシャル（平均場）の中を運動しているものと考えると，むずかしい多粒子問題も一粒子問題におきかえることができる。この一粒子問題を解けば，すべての粒子がそれぞれの解に従って運動しているとして，平均場が計算できる。このような考えで多粒子問題を近似的に解く手段を平均場近似，または分子場近似という。平均場近似とは単にハートリー近似ないしハートリー=フォック近似か，あるいはそれらの有限温度の系への拡張にすぎないようにもみえるが，実はもっと広範囲に用いられる近似法である。例えば磁性体のハイゼンベルク模型やイジング模型の問題では，一つのスピンに着目したとき，これと相互作用している周囲のスピンを全部平均値ですりかえてしまうと，着目しているスピンはまったくほかから孤立して有効磁場の中に放置されているのと同じことになり，その平均値はなんなく求められる。この値はまた周囲のスピンの平均値に等しいとして熱平衡の問題を解くことができる。超伝導のBCS理論もまた平均場近似に基づいている。そこではフェルミ準位近くの反平行スピンの電子対が一種のボース凝縮を起こしているのであるが，この凝縮状態におかれた電子対に相互作用を及ぼしている他の電子もまた凝縮状態の中で平均化して，凝縮した電子はこの平均化によって得られる平均場を受けているとするのがBCSの平均場近似である。平均場近似はまた，相互作用する多数の自由度（モード）からなる系にも応用される。さまざまの非平衡の問題や，臨界現象などの理論でもしばしば用いられる。

　ただし，欠点は一つの粒子（ないし自由度）に働いている力の場に不可欠なゆらぎを無視していること，引力であれば相手を引きつけようとする，また斥力であれば相手を避けて相互作用をなるべく小さくしようとする相関効果が無視されていることである。
執筆者：伊豆山 健夫

出典　株式会社平凡社「改訂新版　世界大百科事典」