ハイゼンベルク模型(読み)ハイゼンベルクもけい(その他表記)Heisenberg model

改訂新版 世界大百科事典 「ハイゼンベルク模型」の意味・わかりやすい解説

ハイゼンベルク模型 (ハイゼンベルクもけい)
Heisenberg model

磁性とは電子のスピン整列することであるが,その明快な説明は量子力学成立後ただちにW.K.ハイゼンベルクによって与えられた。対応原理の範囲では電子スピンに働く力に整列に導くメカニズムはない。ところが量子力学では,電子どうしの等価性とパウリの原理によって,電子のエネルギー状態と電子スピン配列の間にかかわりができてしまう。このかかわりを端的に表現したものがハイゼンベルク模型で,磁性体の最低エネルギーならびに低い励起エネルギーを表す模型であり,変数はスピン変数だけである。ハイゼンベルク模型が当てはまる対象は,まず第1に,磁性の担い手となる電子が電気伝導性をもたない物質であり,第2の条件として,磁性を担う外殻電子のスピンがフント規則に従って各原子内部では整列している場合である。ハイゼンベルク模型が正確な理論であるためには,全系のエネルギー(ハミルトニアン)がいろいろなスピン変数の積を含まなければならないが,理論の簡潔のために,ハミルトニアンが最近接原子対のスピンのスカラー積だけで表されるとし,この型以外のスピン間相互作用をことごとく無視した近似理論としてのハイゼンベルク模型が用いられることが多い。ハイゼンベルク模型は,強磁性体に限らず,反強磁性体フェリ磁性体などにも適用可能であり,またときにはその適用限界をこえて,金属の磁性体にも応用される。この模型におけるスピン変数を,古典的剛体棒(太さを無視)の中心が各原子の中心の位置に固定され,そのまわりを回転できるものであると考えたものは古典ハイゼンベルク模型と呼ばれる。単にハイゼンベルク模型というときのスピンは量子力学的変数である。スピン変数の間の相互作用は交換相互作用と呼ばれ,電子が量子力学特有のトンネル運動によって所属する原子を互いに取り替えることによって生ずる。

 なお,ハイゼンベルク模型において,交換相互作用がスピンの特定方向の成分(例えばZ成分Sz)にしかよらないとしたものをイジング模型Ising modelという。このモデルでは変数がすべて互いに可換であるから,その数学的構造はハイゼンベルク模型のそれよりもずっと簡単である。
磁性
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハイゼンベルク模型」の意味・わかりやすい解説

ハイゼンベルク模型
ハイゼンベルクもけい
Heisenberg model

W.ハイゼンベルクが量子力学的考察をもとに強磁性出現のメカニズムを説明する磁性理論において提出した模型。電子間クーロン相互作用のなかの交換エネルギー積分に関する部分を,スピンの向きの関数として 2Js1s2 の形にまとめたもの。その大きさは2つのスピン s1s2 が互いにどのような角度を保っているかで決る。 J は係数。おもに絶縁性の磁性体の研究に用いられる。これを簡素化したイジング模型では,スピンの代りに2つの値しかとらないベクトルが使用されている。

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