①の挙例「暦象新書」によりオランダ語 Aantrekkingkracht の訳語と推測される。Aantrekking (引)+ kracht (力)=引力と当てたもの。幕末の「英和対訳袖珍辞書」には Attraction の訳語として載る。
互いに引き合う力を引力といい、互いに反発する力を斥力(せきりょく)という。また物質間に働く重力はつねに引力であるため、重力のことを単に引力とよぶ場合もある。万有引力ということばは重力をさす。
空間的に離れた物質の間に働く作用を「力」としてとらえるのは、ニュートン力学により確立した考え方で、このときに認識されていた「力」は、地球と物体、地球と月、太陽と惑星の間の引力である。こうした歴史的経過のため、力の概念そのものと引力とが同一にみられる場合がある。しかし、引力と斥力がある電気、磁気の力にも、さらには原子核を構成する陽子、中性子間に働く核力にも、この力の概念は適用できる。素粒子間の相互作用は正確には場の量子論により記述され、この次元では引力、斥力という概念はもはや有効でない。しかし、場の量子論を用いて力を近似的に構成することはでき、直観的にわかりやすい引力、斥力の概念は現在でも物理学で有用である。
[佐藤文隆]
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