超伝導の仕組みを説明する理論。1957年にバーディーン、クーパー、シュリーファーの3人が提唱したもので、各人名の頭文字をとってBCS理論とよばれる。超伝導は極低温(絶対温度で30K程度)で直流電気抵抗がゼロになる現象である。この超伝導状態になるには電気を伝える電子系が凝集状態にあることが必要と考えられていた。しかし電子はパウリの原理(排他律)に従うフェルミ粒子で、同じ量子状態に複数の電子は存在せず、互いの電気的反発力で遠ざけあうことになる。BCS理論では、この説明困難な問題を解決するために、二つの電子が対(つい)になり、あたかも一つのボース粒子(ボース粒子は同じ量子状態に複数の粒子が存在できる)のようにふるまうことを想定した(この電子の対をクーパー対とよぶ)。クーパー対は二つの電子が金属原子の格子と相互作用して(格子振動が量子化されたフォノンを電子間でやりとりして)結び付いてできていると考えられている。そして、多数のクーパー対がボース粒子として同時に動くことにより超伝導が実現すると考えられる。
[山本将史 2022年7月21日]
超伝導の機構を説明するために,1957年に発表された理論.1911年にH. Kamerlingh-Onnes(カマリング-オンネス)によって発見された超伝導現象に対し,その後,多くの実験および理論的研究が行われたが,それらを包含する形で,J. Bardeen,L.N. Cooper,およびJ.R. Schriefferが提出した理論なので,名前の頭文字をとってBCS理論と命名された.1972年にノーベル物理学賞を受けている.電子が金属イオンのつくる格子中を通過する際には,通過電子は正電荷を有する金属イオンをわずかに変位させる.すると,次にくる電子は変位したイオンの電場から,単独で通過するときよりも,わずかながら強い引力を受ける.すなわち,イオンの格子振動によるフォノンの仲介によって通過する二つの電子は,もし互いに反平行のスピンをもっていれば,弱い結合をつくる.この電子対をクーパー対(Cooper pair)という.いちじるしい低温金属中ならば,このクーパー対はボース粒子的に行動し,ボース-アインシュタイン凝縮によって,その波動関数の位相がそろい,超伝導を起こすと考える.この理論が提出された当時は,超伝導が観測されるのは金属とその合金であったが,1986年には銅の酸化物が超伝導を示すことが発見され,金属や合金で観測される超伝導の臨界温度(現在,最高温度39 K)よりも高い温度(現在,常圧下で最高温度138 K)において観測されるようになり,BCS理論に修正が必要であると考えられている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…1911年オランダのH.カメルリン・オンネスが,約4.15Kで水銀の電気抵抗が突然0になるのを発見したのが最初で,その機構の理論的解明は57年,アメリカのバーディーンJohn Bardeen,クーパーLeon N.Cooper,シュリーファーJohn R.Schriefferによってなされた。この理論は彼らの頭文字をとってBCS理論と呼ばれるが,超伝導の発見からその解明までに長い時間がかかったのは,この現象がまったく量子力学的であり,いかなる古典的説明も成立しないためである。
[超伝導の担い手]
一般に電気伝導を担っているのは導体の内部を自由に動き回ることのできる伝導電子であるが,超伝導を担っているのは,伝導電子と格子振動の相互作用の結果生ずる電子の対(クーパー対という)である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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