一般に二次相転移点近傍でゆらぎが非常に大きくなり,物理量に異常性が現れる現象をいう。例えば気相-液相の臨界点では,密度が不安定になって密度の大きなゆらぎが現れ,その結果,光の散乱が異常に大きくなる。これは臨界散乱と呼ばれている。4Heの液体である液体ヘリウム4が超流動状態になるときには,エネルギー密度に大きなゆらぎが現れ,比熱が対数的に発散することが実験的に知られている。さらに強磁性体では,磁化率がキュリー点で発散する。このように,二次相転移点では,一般に物理量が異常性を示す。自然現象の中で,きわだった現象は,相転移を伴って起こるものが多い。例えば,超伝導,超流動,強磁性の出現,強誘電性の出現,液晶状態の出現などがある。この意味で,相転移および臨界現象を一般的に研究することは,物性物理学の基礎にかかわる重要な問題で,さらに最近は,素粒子,とくにクォークの閉じ込めの問題に関連して,格子ケージ模型の相転移が盛んに研究されている。また,宇宙の初期の問題でも相転移の概念が重要な役割を果たしつつある。
さて,それでは臨界現象はどのようなメカニズムで起こるのであろうか。ひと口にいえば,相転移という対称性の破れに伴って,対称性の高いほうの相(通常の場合は無秩序相)が不安定化し,対称性の低い相(秩序相)に移る直前,臨界点より少し上のところで,局所的には秩序のある状態,つまり,大きい相関距離をもったクラスターが現れ,ゆらぎが異常に大きくなる。これが臨界現象である。したがって,二次相転移のように,一つの相が不安定化し,他の相に移るときには,多かれ少なかれゆらぎの異常性が現れることになる。
ゆらぎの強さを特徴づける指標が臨界指数critical indexと呼ばれるもので,通常,α,β,γ,δ,……のようにギリシア文字で表される。実験によれば,物質の相転移において,物理量は相転移点(臨界点)の近傍で,絶対温度をT,臨界点(の絶対温度)をTcとすると,一般に|T-Tc|νのような形で変化することが知られている。そこで,例えば比熱cの場合,換算温度t≡(T-Tc)/Tcを用いて,|t|≪1(臨界点近傍)に対して,c≅At⁻αとおいたとき,αが比熱の臨界指数となる。また例えば強磁性体の自発磁化Msのような秩序パラメーターを同様にMs∝|t|βとして,T=Tcで0になるものとすれば,βが秩序パラメーターの臨界指数となる。さらに,外場に対する応答の臨界指数γは,例えば,磁場に対する応答としての磁化率χsをχs∝t⁻γとおいて定義される。分子場近似というもっとも簡単な近似を用いると,α=0,β=1/2,γ=1となる。臨界点のごく近傍を除けば,分子場近似の結果はよくあてはまるが,臨界点のごく近傍で,精度を上げて実験すると,分子場近似の結果からのずれが観測される。
物質によって,臨界指数の値は変化するが,その間に一般的な規則性が存在することが発見されている。それは,普遍性とスケーリング則である。臨界指数は,体系の細かいことにはよらず,系の次元や相互作用の対称性などのように本質的なパラメーターにのみ依存するというのが普遍性の主張である。またいろいろな臨界指数は互いに独立でなく,一定の関係(スケーリング関係式)があり,独立な臨界指数の数は二つである。例えば,α+2β+γ=2などの関係式がある。この物理的理由は,L.P.カダノフによって与えられた。それはセル解析と呼ばれる現象論で,セルの中の多数の自由度をセル変数で代表させ,全体系の自由エネルギーは,セルの大きさを変えても不変な形に表現されるという要請を置くことによって,スケーリング則を満たす自由エネルギーの解が見つかった。その特徴は,いくつかの物理量の拡張された同次式になっており,自己相似な構造をもっていることにある。この現象論にミクロな内容を与えたのが,K.G.ウィルソンで,彼の方法は,くり込み群の理論と呼ばれ,多くの多体問題に使われつつある。これは,いわば,多体系の自由度を少しずつ消去し(くり込みの手法),それによって物理量の漸化式を作り,その固定点とそれへの近づき方から臨界点と臨界指数を求める方法である。この方法の出現により,臨界現象の研究は画期的に進歩し,さらにこの方法は,最近,乱流,近藤効果,カオスなどの問題にも応用されている。
→相転移
執筆者:鈴木 増雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 臨界点の近傍では,さまざまな物理量はそれ固有の異常性を示す。この現象を臨界現象という。例えば,T≦TCの場合,臨界点の近くで,上述のVGとVLに対して, VG-VL∝(TC-T)βの関係が成り立つ。…
※「臨界現象」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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