物質は、それを磁場の中に置いたとき、その磁化に従って強磁性体、常磁性体、反磁性体に区別される。したがって、この用例では単に磁性体というのは意味がない。強磁性体は磁場の中で強く磁化される物質であり、常磁性体は弱く磁化される物質であり、反磁性体は弱くしかも磁場の方向とは反対方向に磁化されるものである。この定義では、強磁性体と常磁性体との区別は、単に磁化の強さの程度の差であって、その差異は不明確であるようにみえる。
実は、強磁性体には質的な特徴がある。強磁性体は磁場によって磁化されるのではなく、もともと磁化されているのである(これを自発磁化という)。一見磁化されていないようにもみえるのは、それが磁区に分割されているからである。一つ一つの磁化の方向は違っているが、磁場の中に置かれるとそれらは磁場の方向を向く。このようにして強磁性体の磁化がおこるから、飽和といわれるのは全磁区の磁化の方向が平行になったことであり、飽和磁化の強さは自発磁化の強さに等しいとみてよい。このような自発磁化は温度を上げると小さくなり、ある温度(キュリー温度)でゼロとなる。その温度以上では物質は自発磁化をもたず、常磁性となる。したがって、常磁性体とは、どのように低い温度でも常磁性であるものをいう。しかし、日常的用語では室温で強磁性のものを強磁性体あるいは単に磁性体とよぶことがある。これに対する日常的なことばとして非磁性体がある。
強磁性体では、それをミクロにみれば、磁気の担い手(原子など)の磁気モーメントの方向がそろっている。それで自発磁化をもつのである。それに対して、常磁性体(ランジュバン型常磁性体)では、磁気の担い手の磁気モーメントの方向はばらばらである。反磁性体ではそれらはもともと磁気モーメントをもっていない。それで、強磁性体の自発磁化は、原子の磁気モーメントの秩序の現れとみることができる。しかし、秩序というのは原子の磁気モーメントの方向が一方向に全部そろうものとは限らない。それらが交互に反対方向を向くというのも一つの秩序である。そのような物質はいろいろあることが知られている。それらは、自発磁化をもたないので、先に述べた意味では強磁性体ではない。しかし秩序をもつ点は普通の常磁性体とは異なる。それでこのような物質を反強磁性体という。これとは多少異なる秩序をもった物質でも自発磁化をもたないものはすべて反強磁性に入れてよい。反強磁性体の秩序もある温度(ネール温度)以上では失われ、普通の常磁性となる。
反強磁性体と同様な秩序をもっているが、2種類以上の原子があって、そのモーメントが打ち消されないときには、自発磁化があることになる。このようなものは、見かけ上は強磁性と異ならないし、実用上も強磁性体として取り扱われるが、とくにフェリ磁性体の名でよばれる。フェリ磁性体にも、もっと複雑な秩序のものがある。フェリ磁性体の自発磁化の失われる温度も、強磁性体と同じくキュリー温度とよばれている。
反強磁性体の秩序と似た秩序であるが、交互の磁気モーメントの方向が正確に反対方向ではなく、わずかに傾いているものがあって、弱いながらも自発磁化をもつものがある。そのような物質を弱・強磁性とよんでいる。代表的なものはヘマタイト(α-Fe2O3)である。このような磁気モーメントの秩序はもともとは電子のスピンに関係する交換相互作用からくるものであり、秩序の研究は物質の磁性の研究の一つの中心的課題である。それで、磁性体という用語は、狭義には、磁気的秩序をもつ物質という意味にも使われる。
[宮原将平]
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