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弁証法神学 べんしょうほうしんがくdialektische Theologie

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

弁証法神学
べんしょうほうしんがく
dialektische Theologie

危機神学,あるいは神の言葉の神学ともいう。第1次世界大戦後ドイツ,スイスを中心にプロテスタント的自由主義に対する反動として出現した神学で,K.バルト,F.ゴーガルテン,E.ブルンナー,R.ブルトマンなどの神学者たちにより代表される。神と人間とのこえがたい限界を実存的に把握したうえで,その束縛と断絶の破棄が神の一方的な啓示によって成就されるが,これは人間の歴史的功績や宗教的経験をこえて突如として生じるものであり,しかもかかる啓示は結局神の前なる人間に対する神みずからの肯定と否定とを同時に含んでいるとする。その後バルト,ゴーガルテン,ブルンナーの間で見解の相違が生じたが,この弁証法神学はプロテスタント教会に対し,その自由主義の誤りを喚起することで大きな寄与をした。

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デジタル大辞泉の解説

べんしょうほう‐しんがく〔ベンシヨウハフ‐〕【弁証法神学】

《〈ドイツ〉dialektische Theologie》第一次大戦後、ドイツ・スイスを中心にK=バルト・ブルンナー・ブルトマンらによって唱えられ、思想界に大きな影響を与えたキリスト教神学運動。神の超越性と人間の認識的な限界、すなわち神と人との断絶を主張し、両者の弁証法的関係から信仰が始まると説いた。危機神学

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百科事典マイペディアの解説

弁証法神学【べんしょうほうしんがく】

ドイツ語dialektische Theologieの訳。第1次大戦後ドイツに興った神学運動で,その危機意識のゆえに〈危機神学Theologie der Krisis〉とも称される。
→関連項目キルケゴールニーバーブルンナー

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世界大百科事典 第2版の解説

べんしょうほうしんがく【弁証法神学 dialektische Theologie[ドイツ]】

第1次世界大戦後,従来の自由主義神学を批判してスイス,ドイツに興った神学運動。〈危機神学Theologie der Krisis〉とも呼ばれる。この運動の中心人物であったK.バルトは,ブルムハルト父子の影響をうけたクッターH.Kutter(1863‐1931)とラガーツL.Ragaz(1868‐1945)とともに宗教社会主義運動に加わっていたが,《ローマ人への手紙》(第2版,1922)においてキルケゴールのいう〈神と人間との絶対の質的差異〉をモットーとし,ドストエフスキーやニーチェからも時代の本質的な危機を学んで,19世紀の文化的キリスト教を激しく非難し,キリスト教の終末論的本質と教会の罪とを明らかにした。

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大辞林 第三版の解説

べんしょうほうしんがく【弁証法神学】

第一次大戦後、カール=バルトらがドイツで起こした神学運動。神と人間との間の根本的断絶を強調し、この断絶は聴聞者における神の言葉への信仰によってのみ弁証法的に克服されると説く。従来の自由主義神学を批判し、宗教改革的伝統(特にカルビニズム)への回帰を主張。危機神学。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

弁証法神学
べんしょうほうしんがく
Dialektische Theologieドイツ語
dialectical theology英語

第一次世界大戦後スイスとドイツを中心におこったプロテスタントの神学運動で、キリスト教神学が近代主義の枠を乗り越えて現代的展望をもつ突破口となった。19世紀後半の近代自由主義神学は、F・E・D・シュライエルマハーの思想を出発点とし、近代的知識人とブルジョア社会の要求に適合するものであったが、資本主義が内的自己矛盾を露呈し、階級闘争と帝国主義戦争が起こったとき、それを批判し、解決の方向を示す力をもたなかった。大戦後の荒廃のなかで教会の無力に失望していた人たちに対して、スイスの小工業村ザーフェンウィルの牧師カール・バルトの書いた『ローマ書』(1919、改訂二版1922)が衝撃的影響を与えた。彼は学生時代ハルナックの下で自由主義神学を学び、そこから出発したが、従来の神学では搾取と抑圧に苦しむ村民の魂に語りかけえないことを知り、社会主義にも触れて、新しい神学の方向を模索した。その成果を盛り込んで発表したのがこの書である。その中心点は、近代ブルジョア社会と人間中心主義的な近代文明に奉仕するキリスト教から脱して、神の絶対的超越性を回復することにあった。「神は神である」や「神を神とせよ」といった主張は、それを意味する。それによって神学は、絶対的超越神の下で、近代社会の矛盾と近代人の傲慢(ごうまん)を批判し、挫折(ざせつ)からの救いの方向を示すことができるようになった。
 ドイツのG・メルツ、F・ゴーガルテン、R・ブルトマン、スイスのE・トゥルナイゼン、E・ブルンナーら、若い有能な神学者がこの立場に共鳴し、1922年に雑誌『時の間に』を刊行して運動を展開した。神と人間は「無限の質的差異」(キルケゴール)に隔てられているから、神を人間のことばでとらえることはできないが、そのうえでなお、この絶対的超越神について語ることが神学の課題となった。そのために、バルトの『ローマ書』をはじめ、彼らの著書、論文には、死と生、地と天、プラスとマイナス、罪と救い、正と反といった弁証法的対概念や、逆説、不可能な可能性などの語が縦横に用いられたので、外部の人たちが「弁証法神学」とよんだ。また文化の危機、近代的人間の危機を強調したので「危機神学」ともよばれた。しかしバルト自身は、絶対的超越神が人間に語りかけるできごととしてのイエス・キリストの啓示を中心に据えるものとして、「神の言葉の神学」という表現を用いた。
 この運動は、その出発点から同床異夢の様相があり、まもなく中心人物の間の考え方の違いが表面化してくる。神学における実存主義の位置づけ、自然神学の可否、ナチズムに対する態度、教会と国家の関係などをめぐって対立が生じ、中国の革命運動の将軍たちのように分裂したと評された。1933年にバルトは「訣別(けつべつ)」という論文を書き、『時の間に』誌は廃刊となった。バルトとトゥルナイゼンは『今日の神学的実存』誌を刊行し、他の人たちもそれぞれの道を歩み始めた。しかし彼らの活動はその後も、世界教会一致運動、キリスト教平和運動をはじめ、社会主義国におけるキリスト教の問題、聖書解釈における非神話化をめぐる論争、カトリック神学との対話など、広範囲にわたって直接間接の影響を与えている。[小川圭治]

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世界大百科事典内の弁証法神学の言及

【キリスト教】より

… 第1次世界大戦は世俗化のオプティミズムを露呈するものであった。弁証法神学と呼ばれる運動は,ドイツ,スイスのキリスト教社会主義の〈神の国〉運動を背後にもち,奇跡と再臨の信仰に生きたブルムハルト父子からの衝撃を受けとめつつ,ニヒリズムを初めとする文化の危機と,キリスト教的ヨーロッパの終りという歴史の危機とを強く感じ取り,終末論を信仰の中心にすえた一団の人々によってになわれていた。ラガーツ,クッター,K.バルト,E.ブルンナーなどがそれで,ティリヒやブルトマンもその近くにいた。…

【キルケゴール】より

…このキルケゴールの思想は,20世紀の激変する時代の中で注目され,哲学界ではニーチェとともに実存哲学の祖と称されるに至った。またバルト神学に受容されて弁証法神学に大きな影響を与えたほか,実存心理学や,リルケ,カフカ,カミュ,サルトル,椎名麟三などの実存主義文学にも吸収されている。実存主義【柏原 啓一】。…

【実存主義】より

…精神医学や心理学には,ビンスワンガー,フランクル,ボス,R.メイ,マズローらによって実存思想が導入された。神学界ではブルトマンが実存神学を標榜,ティリヒにも受容されており,K.バルトやE.ブルンナーらの弁証法神学運動も当初は実存主義的動機によるものであった。法学に実存主義を生かそうと試みた人に,W.マイホーファーやE.フェヒナーらがいる。…

【時の間】より

…K.バルト,E.トゥルナイゼン,F.ゴーガルテン,メルツG.Merzを共同編集者として,1922年から隔月発行された神学雑誌。その数年前から彼らを中心として動きはじめていた〈弁証法神学〉と呼ばれる新しい神学運動がこの雑誌によって推進された。しかし,やがてゴーガルテンがドイツ・キリスト者信仰運動に接近し同調するに及んで,バルトとの間に対立が生じ,33年に廃刊となった。…

【バルト】より

…彼はしだいに〈宗教社会主義〉の運動から離れ,パウロの《ローマ人への手紙》の講解を19年に発表する。それはさらに根本的に書き改められて,22年に再版されるが,これが大戦後の神学界に強烈な影響を与え,やがて〈弁証法神学〉という名で呼ばれる新しい神学運動の出発点となる。 21年にバルトはゲッティンゲン大学に招かれて,神学教師としての道を歩きはじめるが,22年にトゥルナイゼン,メルツG.Merzと共同編集で雑誌《時の間》を発行。…

※「弁証法神学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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