改訂新版 世界大百科事典 「自由主義神学」の意味・わかりやすい解説
自由主義神学 (じゆうしゅぎしんがく)
liberale Theologie[ドイツ]
キリスト教神学の一立場。一般に正統主義が聖書と教義の客観的な扱いを要求するのに対し,自由主義はその歴史的相対性を主張して信仰の実存や精神活動によってこれを解釈しようとする。この対立はどの時代にもみられるが,こんにち自由主義神学と呼ばれるものは,主として19世紀のリッチュルとその学派をさす。そこにはハルナックのような教義史の大立者がおり,聖書研究ではH.グンケルやJ.ワイスのような宗教史学派に属する学者がおり,ブルトマンもその流れを汲んでいる。リッチュルの根はまえのシュライエルマハーにあり,自由主義神学は広く近代主義神学の中に位置づけられる。カトリックではロアジー,ブロンデル,ヒューゲルらの神学を近代主義(モダニズム)と呼び,教皇ピウス10世(在位1903-14)はこれをまったくの異端として退けた。プロテスタントでは特にK.バルトが,近代主義神学の人間主義化に対抗して神と人間の質的差異を強調する弁証法神学を立てたが,彼自身シュライエルマハーを乗り越えたとはいわず,また自由主義神学の学問的批判的方法を拒否しなかったことは特徴的で,古い形の正統主義はプロテスタントにおいてさえもはや成立しなくなっているといえる。リッチュルは主著《義認と和解》3巻(1870-74)で,イエスの人格と内的生命の中に神の啓示を見たが,ハルナックは綱領的著作《キリスト教の本質》(1900)においてこれを展開し,神の啓示はその後の歴史の中にも与えられると主張した。宗教史学派は終末論を強調することによって啓示の人間主義化に対抗したが,同時に終末論を非神話化し歴史化する課題をになうことになった。このように,自由主義神学は啓示と歴史,あるいは教義学と倫理学という問題を神学の中心にすえ,神学の非教義化をもたらしたものといえる。なお,自由主義神学は日本でも新神学として明治中期に一時多くの共鳴者を見いだした。
執筆者:泉 治典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報